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【伊東潤の 英雄たちを旅する】第3回 北条政子と鎌倉

場所
> 鎌倉市
【伊東潤の 英雄たちを旅する】第3回 北条政子と鎌倉

11 世紀、源氏の守り神として創建された鶴岡八幡宮。境内は国の史跡、本宮は重要文化財

 

プロフィール
伊東 潤(いとう じゅん)

1960年、神奈川県横浜市生まれ。歴史作家。2013年、『国を蹴った男』で吉川英治文学新人賞、『巨鯨の海』で山田風太郎賞を受賞。過去5回、直木賞候補となる。近著に、敗れ去った日本史の英雄たち25人の「敗因」に焦点を当て歴史の真相に迫るエッセー『敗者烈伝』(実業之日本社)などがある。

鎌倉で北条政子ゆかりの場所をめぐる

2022年のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」を見て、鎌倉時代初期の面白さを知った、ないしは再発見した人も多いはずだ。とくに小池栄子演じる北条政子は、これまでの悪女イメージから脱皮し、頼朝(よりとも)亡き後の武家政権を支えた堂々たる尼将軍だったことを再認識させてくれた。

北伊豆の小土豪にすぎなかった北条時政(ときまさ)の長女として生まれた政子は、平々凡々たる生涯を送るはずだった。ところが源頼朝の父義朝が平清盛に敗れ、頼朝が伊豆に流されてきたことで運命が一変する。政子は頼朝と恋に落ち、押しかけ女房のような形で嫁ぐことになる。その後、頼朝が討伐を受けることになり、それならとばかりに時政らに担がれた頼朝は平家に反旗を翻(ひるがえ)し、鎌倉に幕府を開くことになるのは知っての通りだ。

鎌倉で政子ゆかりの場所としては、まず鶴岡八幡宮(つるがおかはちまんぐう)を挙げねばなるまい。鎌倉幕府の正史『吾妻鏡(あづまかがみ)』では、政子は幾度となく鶴岡八幡宮に参拝している。政子と頼朝にとって思い出深い鶴岡八幡宮は、2人の次男にして3代将軍実朝(さねとも)が殺された苦い記憶の場所でもあった。

参道の若宮大路のうち一段高い歩道は段葛(だんかずら)と呼ばれている
JR鎌倉駅東口から鶴岡八幡宮まで若宮大路と平行に走る小町通り

鶴岡八幡宮のほかにも、鎌倉には政子ゆかりの場所がいくつかある。

JR鎌倉駅の西口から徒歩10分の場所にある寿福寺とその背後にそびえる源氏山には、ぜひ行ってほしい。源氏山の山麓をくり抜くようにして造られた横穴式墳墓「やぐら」の一つに、政子と実朝の墓とされる五輪塔があるからだ。そこから急峻(きゅうしゅん)な散歩道を登ると源氏山に着く。ここには頼朝像が鎮座しており、四季折々の花々が楽しめる。源氏山は「かながわの公園50選」の一つにも選ばれているほど緑豊かで、鎌倉観光の穴場と言われている。

源氏山公園の頼朝像

政子との縁が深い寺となると、政子の墓と伝わる供養塔がある安養院(あんよういん)だろう。この寺は頼朝の菩提(ぼだい)を弔(とむら)うために、政子が別の場所に建立した長楽寺が前身となる。その後、鎌倉時代末期にこの地に移り、政子の法名である安養院に寺名変更したという。薄紅色のツツジが咲き乱れる様は圧巻なので、花期の4月下旬〜5月中旬に行くのがよいだろう。

ツツジの花が咲く安養院には政子の墓と伝わる供養塔がある

娘の大姫とその許嫁(いいなづけ)になる木曽義高の菩提を弔うために、政子が建立したと伝わる常楽寺(じょうらくじ)にも足を延ばしてほしい。この寺は北鎌倉駅と大船駅の間にあるので、鎌倉の中心部からは少し離れているが、観光客が少ない分、落ち着いた風情があり、しばし閑雅(かんが)な気持ちに浸れる。

時間に余裕があれば、政子の弟の義時ゆかりの覚園(かくおん)寺や法華堂跡にも寄ってほしい。覚園寺は義時が建立した寺で、薬師堂に置かれた薬師如来像と十二神将像の造形の見事さには圧倒される。法華堂跡は頼朝と義時の墓がある場所で、2005年に義時の墳墓堂(法華堂)の礎石が発見されて話題となった。

そして夕暮れ時には、由比ヶ浜に行ってほしい。政子も眺めたに違いない稲村ヶ崎に沈む夕日は、鎌倉で栄枯盛衰(えいこせいすい)を繰り広げた人々の思いが凝縮されているようで、歴史の重みを感じさせてくれる。

文/伊東潤

写真協力/鎌倉市観光協会

由比ヶ浜から見る稲村ヶ崎と落日

英雄メモ🖋

北条政子(ほうじょう まさこ)[1157~1225]

鎌倉幕府初代将軍(鎌倉殿)の源頼朝の妻(御台所)。伊豆国の豪族、北条時政の長女として生まれ、頼朝の妻として、後に執権となる弟・義時とともに幕府の成立と発展に尽くした。頼朝の死後は尼となり、重臣による合議政治を推進。子の第2代将軍頼家、第3代将軍実朝は、政争の中で暗殺された。実朝の死後は、京から招いた幼い第4代将軍藤原頼経の後見となって幕府の実権を握り、「尼将軍」とも称された。


[鶴岡八幡宮への交通]
横須賀線鎌倉駅から徒歩10分

[観光の問い合わせ]
TEL:0467-23-3050(鎌倉市観光協会

※記載内容はすべて掲載時のデータです。
(出典:「旅行読売」2023年4月号)
(Web掲載:2024年4月19日)


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