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江戸時代の旅人気分で歩く 日光杉並木街道【駅から歩こう1万歩】

場所
> 日光市
江戸時代の旅人気分で歩く 日光杉並木街道【駅から歩こう1万歩】

七本桜周辺は杉の保護のため車両通行止めになっている。石垣の上にそびえる杉がさらに高く感じられる

 

世界最長の並木道としてギネス世界記録にも登録

世界最長の並木道としてギネス世界記録に登録されている日光杉並木街道。名前を聞くと1本の街道かと思えるが、実はそうではなく、日光街道、例幣使(れいへいし)街道、会津西街道の三つの街道沿いに37キロにわたって杉並木が続き、それらが日光の手前の今市(いまいち)宿で交わっている。なかでも五街道の一つで、歴代将軍の日光参拝(社参) の際には大行列が続いた日光街道には、歴史の生き証人のような名物杉が集まっている。江戸時代の旅人気分に浸りながらその魅力を改めて知るべく、1万歩を目指して歩いてみた。

日光の杉並木は、徳川家康、秀忠、家光の3人の将軍に仕えた松平正綱が20年以上かけて植え、東照宮に寄進したもの。ではどうして杉だったのか? 杉並木に関する展示も多い日光市歴史民俗資料館の福田博晃さんに聞くと、「天をつく杉の姿に神気を感じ、東照宮へ向かう参道にふさわしい木としたといわれています」とのこと。まずは、JR日光線今市駅または東武日光線下今市駅から歩いて6分の日光街道沿いからバスに乗り、名物杉のある森友地区へ。杉の割れ目からヤマザクラの種が生えて成長した「桜杉」、そしてすぐ先の七本桜の一里塚に通称「並木ホテル」がある。木の根元が腐り、大人4人ほどが入れる空洞が生まれたことからそう呼ばれる巨木だ。中は風が遮られるためか、ほのかに暖かい。焚(た)き火の跡なのか、内側の木肌が黒光りしているのも印象的だ。

「並木ホテル」は周囲を竹が囲み、神秘的な雰囲気

この区間は、一部は車も通行できる舗装路だが、多くの車は並行する国道119号を走るため、ほとんどすれ違うことはない。また国道より一段低くなっているため、車の往来も気にならない。杉特有のすがすがしい芳香も相まって、現代であることを忘れそうになる。

杉並木が途切れた所は、例幣使街道との追分(おいわけ)で、分岐点に追分地蔵尊がある。本尊は高さ約3メートルと大きな石地蔵で、将軍の日光社参の際には目障りだからと囲いが設けられたという逸話も残る。ここからが今市宿。みそ屋などの老舗が並ぶほか、晩年を日光神領の再興に捧げた二宮尊徳(そんとく)ゆかりのスポットが点在する。

室町時代に作られたと伝わる追分地蔵尊の地蔵菩薩坐像

戊辰戦争の傷跡も残る

いったん途切れた杉並木は、上今市駅前から再び始まる。足元は土に変わり、両側では大谷(だいや)川から宿場に水を引き込むための水路が、涼しげな音を立てている。

道中には、一体となった7本の杉の根元だけが残る箇所や、戊辰戦争の際にできた砲弾の傷が幹に残る「砲弾打込(うちこみ)杉」などがある。また、特に名はなくとも、ビルの10階ほどの高さまで高く太く成長した杉が続いていた。

瀬川地区にある七本杉跡。根元だけでも大人の背丈を越える大きさ
砲弾打込杉は、戊辰戦争のとき、官軍が日光山に立てこもる幕府軍を攻撃した際に大砲の弾が当たったという

ここまで前出の「桜杉」から約4キロ。ここから国道に出て東武日光駅までバスに乗って足を延ばすのもいい。または杉線香の粉砕に使われた水車などが展示されている杉並木公園を散策しながら今市方面に戻ると、徒歩距離約7.3キロとなり1万歩の目安を超える。

杉並木は当初、約5万本の杉が植えられたというが、台風や立ち枯れなどで、現在は約1万2000本にまで減っているという。杉並木オーナー制度や、約120人が登録する保護ボランティア「杉の並木守」による保全活動も行われている。これまで車で何度も通った杉並木だったが、じっくり歩いて初めて知ることが多かった。そしてこの美しい並木を守りたい、そんな思いにもなった。

文・写真/野水綾乃

🔳モデルコース
<徒歩距離 約7.3キロ・徒歩時間 約2時間30分>

今市駅または下今市駅
 (400メートル)
下今市バス停
 (バス4分)
今市日産前バス停
 (200メートル)
桜杉
 (200メートル)
七本桜の一里塚(並木ホテル)
 (1500メートル)
追分地蔵尊
 (2500メートル)
砲弾打込杉
 (2500メートル)
今市駅または下今市駅

まだある杉並木街道

  

例幣使街道

朝廷より派遣された例幣使が、毎年幣帛(へいはく<神に供えるもの>)を東照宮に納めるために使った道のこと。江戸を経由せずに中山道経由で向かうのが慣習だった。東照宮造営に使う石材を2000人で運んだ十石(じっこく)坂、1949年の地震で並木の杉ごと地すべりした地震坂などがある。

  

会津西街道

会津地方およびその背後にある東北・北陸諸国と江戸を結んだ街道で、大桑から倉ヶ崎の約6キロに杉並木がある。大名行列がすれ違うために造られたという説もある、杉が二重になった二重並木などが名所。街道の近くには、大桑杉並木観賞公園もある。


※記載内容はすべて掲載時のデータです。

(出典:「旅行読売」2024年6月号)
(Web掲載:2024年5月23日)


Writer

野水綾乃 さん

1973年、栃木県生まれ。温泉と旅のライター。現在も栃木を拠点に、県内はもちろん、全国の温泉地や食、民芸などの取材を行う。温泉ソムリエアンバサダー、温泉入浴指導員、日本旅のペンクラブ理事。

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