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【私の初めてのひとり旅】久住昌之さん 日光澤温泉、下田(1)

場所
  • 国内
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  • > 静岡県
> 日光市、下田市
【私の初めてのひとり旅】久住昌之さん 日光澤温泉、下田(1)

くすみ・まさゆき [漫画家]

1958 年、東京都出身。2012 年にテレビドラマ化された『孤独のグルメ』の原作者。ミュージシャンとしても活躍し、同ドラマの劇中音楽を作曲・演奏している。よみうりカルチャー「敦賀・若狭講座」の講師も務める。著書も多数あり、最新刊は弟・卓也さんとコンビを組んだ『古本屋台2』(本の雑誌社)。

 

『秘湯』の響きに憧れ日光澤温泉へ

もう漫画家になっていたので、25歳か26歳だったと思いますが、栃木県の奥鬼怒の日光澤温泉へ行ったのが初めてのひとり旅です。本当は父親が勤めていた大学の、神奈川県の三浦半島にある寮に行ったのが初めてなのですが、安全パイでつまらないのでカウントしない方がよいと思って。若気の至りというか、バスも通っていない、歩きじゃなきゃダメという場所に行ってみたいってなったのだと思います。

2時間歩いてたどり着いた木造の宿

日光澤温泉のことは、同じ奥鬼怒の八丁の湯という温泉に行った友だちから聞きました。ガイドブックで調べたら、歩きでないと行けないとあって、それは秘湯だな、そこ行こうと。秘湯という響きに憧れていたんです。鬼怒川温泉駅からバスに乗り、(終点の)女夫渕(めおとぶち)という停留所で下りて、遊歩道をかなり歩いたところに八丁の湯があり、さらに歩くと加仁湯(かにゆ)という温泉があるんです。そこからまた歩いて、大丈夫かなとだんだん心細くなってきた頃に看板が出てきて、古めかしい木造の宿が現れて。そこが日光澤温泉です。バスを下りてから2時間くらいでした。そのくらいじゃないと秘湯という感じはしませんよね。道中、雪があったので12月だったと思います。

秘湯ムード満点の木造建築の日光澤温泉(写真/ピクスタ)

今回、記憶をたどるために宿のホームページを検索してみたら、40年くらい前に訪れた当時の雰囲気をとどめていて感激しました。部屋は6畳ほどで暖房はコタツくらいしかなく、テレビもありませんでした。その日は僕ともう1人のお客さんしか泊まっていなかったので、夕食は下の階の部屋で囲炉裏を囲みながら2人でとりました。40代くらいの男性で、年2回はその宿に来ると話していました。宿から歩いて20〜30分かかる鬼怒沼湿原に行って雪景色や夏の風景の写真を撮っているということでした。

誰もいない暗い温泉に1人で入るのが少し怖かったな。翌朝、部屋の窓から庭を見たら、男性が鍋でお湯を沸かしてラーメンを作って、宿の奥さんと談笑しながら食べていました。何かとても旅慣れているようで憧れました。

野性味あふれる日光澤温泉の露天風呂(写真/ピクスタ)

僕はチェックアウトしてからその湿原に行ってみましたが、男性の姿はありませんでした。真っ白い雪原に、点々と赤い血の跡が続いているのが目に入り、その先をウサギが飛び跳ねて行くのが見えました。なぜケガをしたのかは分からないけど、その姿がとてもかわいそうだったことは忘れられません。青空と、白い雪の上に赤い血がついている光景は今も強く印象に残っています。それを見たら妙に納得して、また2時間かけて歩いて帰りました。

話・写真/久住昌之 聞き手/山脇幸二

【私の初めてのひとり旅】久住昌之さん 日光澤温泉、下田(2)へ続く(6/11公開)


※記載内容はすべて掲載時のデータです。

(出典:「旅行読売」2024年5月号)
(Web掲載:2024年6月10日)


Writer

山脇幸二 さん

2022年6月に編集部に着任し、8月から編集長。読売新聞の記者時代は27年にわたって運動部でスポーツ取材に明け暮れた。一時は月の半分近くが出張という生活で、旅行しながら仕事しているような状態だった。今やその旅行が仕事になろうとは…。趣味はロック鑑賞で、ライブやフェスに通うことで身も心も若さを保とうと悪あがきする。矢沢永吉さんを尊敬し、ともに歳を重ねていける幸せをかみしめる日々。

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