【世界の絶景遺産】マヤの神が″降臨″する階段ピラミッド チチェン・イッツァ(メキシコ)
シンボルのカスティーヨはスペイン語で「城」の意。「暦のピラミッド」の異名がある
天文台や球戯場が残るメキシコ最大規模のマヤ遺跡
ティカルなどマヤ中央部の都市国家は、9世紀頃に滅んでしまった。かわって発展したのが北部地域で、ユカタン半島のチチェン・イッツァはその中心的な都市の遺構である。ピラミッドや天文台、球戯場、セノーテなど、マヤ文明の特徴的な遺構がそろう、メキシコ最大規模のマヤ遺跡だ。
最大の見どころは、「カスティーヨ」とも呼ばれるピラミッドである。頂上の神殿を除く高さが24メートル、底辺は55メートル四方で、91段の階段を4面に備える。この総数に神殿部分の1段を足すと365段となり、1年の日にちと同じになる。マヤは天文学が発展していたが、カスティーヨはそれを体現している。
カスティーヨはマヤの最高神ククルカン(羽毛のある蛇の神)を祀(まつ)り、春分と秋分の日には「降臨」が起こる。太陽が沈む頃、西日に照らされたピラミッドの階段の影が、中央部の階段側面にギザギザ模様の影を作る。その影に切り取られた波打つ光が、ピラミッドの一番下に据えられているククルカン神像の蛇の頭部につながると、上から蛇が降りてきたように見えるのである。
といっても、ほとんどの旅行者はそれ以外のタイミングで訪れるだろうから、「降臨」のシーンは想像するほかない。インターネットなどで写真を見ておくと、「こうなるのか」と現地でわかりやすいだろう。現在、カスティーヨには登ることができない。
少し離れた位置には、「カラコル」という、美しい円筒形の塔がそびえている。最上階の窓に夏至と冬至の日だけ太陽の光が差し込むよう設計されていることから、天文台だった考えられている。
広々とした球戯場も、チチェン・イッツァの見どころの一つだ。高さ6メートルの位置に石の輪があり、そこにボールを通すルールだったようである。レリーフには敗者が生け贄とされている様子が描かれているが、捧げられたのは勝者だという説もある。
大河のない半島でマヤ文明が栄えた理由
チチェン・イッツァのあるユカタン半島北部は、いわゆるカルスト地形で、降雨が地面に浸透しやすいため地下水が豊富だ。ところどころにセノーテという竪穴があり、天然の井戸として使われた。セノーテは、大河のないこの地域に大文明が発達した源であり、チチェン・イッツァでも見られる。
遺跡エリアは公園のようにきれいに整備されている。広々とした敷地には芝生が植えられ、きれいすぎて遺跡らしさが若干物足りないのが、残念と言えば残念なところだ。ピラミッドや天文台などの重要施設がよく保存されている反面、往時の街並みを偲ばせるような遺構には乏しく、人々の生活の息吹はあまり感じられない。
チチェン・イッツァは、ユカタン半島沿岸の国際的リゾート地・カンクンから約200キロ、クルマで3時間ほどの距離にある。リゾート地滞在中に日帰りツアーを使えば、訪れるのは簡単である。最近はマヤ鉄道も開通し、時刻表上はカンクン空港からチチェン・イッツァまで2時間で直行できるようになった。ただ、まだ運行は不安定なようなので、利用する場合は事前によく確認しよう。
文・写真/鎌倉 淳
【旅行データ】
チチェン・イッツァの観光拠点は、ユカタン半島の東端のリゾート地・カンクン。カンクンへは、アメリカ経由で羽田から16~20時間程度。カンクンからチチェン・イッツァまでは、バスで3時間ほど。現地で各社が行っている日帰りツアーが便利だ。
2023年にはマヤ鉄道も運行を開始した。カンクン空港~チチェン・イッツァ間は1日2便程度の運行。マヤ鉄道のホームページで予約できる。
遺跡付近に大きな町はないが、ゲストハウスが数軒あるので、そこに泊まっても良い。また、敷地に隣接してリゾートホテルもある。
(Web掲載:2024年6月4日)