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のと鉄道の終点・穴水で味わう、復活した「能登丼」

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のと鉄道の終点・穴水で味わう、復活した「能登丼」

甘エビやアワビ、カニなどがのった福寿司の「能登丼」

 

前進する穴水町の復興

石川県の能登半島には、素朴な里山風景や豊かな食の魅力に惹かれ、幾度となく訪れてきた。今年元日の能登半島地震によって甚大な被害を受けたが、4月6日には七尾-穴水(あなみず)駅を結ぶ、のと鉄道が全線復旧した。その終点にある穴水町の老舗すし店が同月21日営業を再開したと聞き、のと鉄道に乗って穴水駅を目指した。

七尾駅を出発した列車は、のどかな田園風景を進む。屋根の一部をブルーシートで覆う家も見かけるが、能登らしい黒瓦が艶やかで美しい。やがて右手車窓に青い七尾湾が広がった。内海の湾は、波静かで湖のように穏やかだった。

海と里山に囲まれた穴水は、奥能登の玄関口で、ここを拠点に輪島や珠洲(すず)へ向かう人もいる。1月の地震では震度6強を観測し、約1900棟の家屋が全壊または半壊した。町を歩くと、自治体が費用を負担して建物を解体する公費解体があちこちで始まっていた。インフラ等の復旧から町の復興へと段階は移り、少しずつ前に進んでいくようだ。穴水物産観光協会によれば現在(2024年6月13日)、穴水町内では、5~6割程度の民宿や飲食店が営業を再開している。

七尾湾沿いを走行するのと鉄道。西岸駅から穴水駅手前までの車窓が特におすすめ(写真/伊藤岳志)

創業55年のすし店の大将の思い

今回の目的地の福寿司は、穴水駅から徒歩5分のところにある。1969年創業の店は、大将の松本志郎さんが23歳の時に開き、妻の好美さんと二人三脚で営んできた。地震で建物は倒壊しなかったものの、屋内の多くの物が壊れて散乱し、足の踏み場もない状態に。当初は途方に暮れたそうだが、「地震のせいで店をたたむのは悔しくて、再び店を開けようと決めた」(志郎さん)。避難所生活を経て隣の親族宅で寝起きしながら、家族や常連客の助けを借りて片付けたという。

「全国各地から届いた再開を望む電話も励みになった」と言う78歳の志郎さんの笑顔からは、仕事を続けられる喜びが伝わってきた。好美さんには「100歳までがんばらんと」とハッパをかけられているそうだ。

穴水駅から徒歩5分にある福寿司
店内で魚をさばく大将の松本志郎さん

奥能登のご当地グルメ「能登丼」

目当ての能登丼(3450円)を注文した。能登丼は、奥能登の2市2町(輪島市、珠洲市、穴水町、能登町)が提供するご当地グルメで、メイン食材と米は地元産のものを使うことが定義付けられている。福寿司の能登丼は、サザエやヒラメ、イカ、甘エビなど十数種の地物のネタが載ったぜいたくな海鮮丼だ。

能登丼事業協同組合に加盟する38店舗のうち現在(2024年6月13日)、15軒で能登丼の提供を再開している。食材の仕入れには苦労している所もあるようで、福寿司の近くの漁港もまだセリを再開していない。地元で揚がった魚介類は金沢の市場に運ばれ、それを地元の買付人が競り落として再び穴水まで運んできたものを仕入れているそうだ。その分、仕入れ値が上がるが、マグロ以外はすべて地物ネタをそろえている。それを例えて「こっちの子が、ちょっとだけ都会の子になって帰ってくる」とユーモアを忘れない。

今は、復興支援の関係者が主な客だという。志郎さんは「いつかまた県内外の観光客に能登を訪れてほしいと願っている」と話す。

文/出口由紀 写真/宮川 透

「能登丼」を持つ松本志郎さん

福寿司

穴水一の老舗寿司店で、著名人も多く訪れる。能登丼(3450円)は、地元でとれた新鮮なネタが13~14種のっている。

■11時30分~ネタがなくなり次第終了/当面の間、不定休/のと鉄道穴水駅から徒歩5分/℡:0768-52-1032

(ウェブ掲載 2024年6月20日)


Writer

出口由紀 さん

美味しいものには目がないライター。その土地の空気の中で味わう新鮮な特産品や郷土料理は、旅ならではの醍醐味だと思っている。最近感動したのは、生でかじった北海道の白いトウモロコシと夏の日本海の岩ガキ。土地それぞれの言葉を聞くのも好きで、一期一会の出会いと会話を楽しみながら旅をする。

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