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【ひみつのかき氷】あてなるもの-古代のかき氷

場所
> 奈良市
【ひみつのかき氷】あてなるもの-古代のかき氷

再現された古代のかき氷

 

  

「削り氷(ひ)にあまづら入れて あたらしき金椀(かなまり)に入れたる」

『枕草子』の「あてなるもの」に載る日本最古のかき氷の記述です。削り氷は、文字通り削った氷のこと。次の「あまづら」が古代の甘味料・甘葛煎(あまづらせん)で、今でいうかき氷のシロップでした。「あたらしき金椀」とは、新調した金属製のお椀(わん)。平安時代なら銀製で、器台と蓋がセットだったと考えられます(次の写真)。これを「あてなるもの」=上品なもの・高貴なものと、清少納言は描写しているのです。

甘葛煎(左)と金椀

甘葛煎はどんなシロップ?

甘葛煎は天皇や貴族が、菓子や料理の甘味料として使用するほか、薬や薫物(※たきもの)のつなぎ、贈答品にも使った有用資源です。駿河など21か国以上で製造され、都へ運ばれました。奈良時代の初めには平城京で使われています。しかし中世後期に砂糖が流入すると、近世には原材料も製造方法も不明となった幻の甘味料です。

「あまづら」は和語なので日本独自の甘味料だと思われます。原材料は諸説ありますが、私はツタ(ナツヅタ)説が有力と考えます。ツタは繁殖能力が高く、全国に分布し、厳冬期の樹液の糖度が20%を超える植物で、甘葛煎の原材料になりえると考えられるからです。

2011年に甘葛煎研究者であった石橋顕(あきら)先生をお招きし、奈良女子大学で再現。その5年後に甘葛煎再現プロジェクトが始まり、20年には奈良市内の飲食店、氷室神社とともに「奈良あまづらせん再現プロジェクト」を立ち上げました。毎年、厳冬期に市内各所でツタの樹液を採取。大人30人で1日作業して1リットルの樹液を集め、これを煮詰めてようやく100ミリ・リットルの甘葛煎ができあがるのです。

※薫物:さまざまな香を合わせた練香(ねりこう)

ツタ採取の様子

甘葛煎は、口に含むと強い甘さを感じるのに後にひかない、爽やかな甘みが特徴です。この甘みは現在市販されているどの甘味料にも該当しません。私たちのご先祖が1300年も前に食べていた味を多くの方々に味わってほしい。それを奈良の名物にしたいと研究を重ね、昨年、甘葛煎の味を再現したシロップができました(こちらの記事)。

これまで奈良をはじめ岩手県平泉町や福岡市などで再現した11点の甘葛煎を化学分析し、明らかになった成分をもとに作りました。くどくない甘さは、奈良特産の柿渋を加えることで再現。そのため、甘葛煎は黄金色なのに対し、甘葛シロップは赤味があります。

再現した甘葛煎の数々とツタ

さて、古代のかき氷は氷を刀で削ったと考えられます。おそらく桶に削った氷を入れて甘葛煎をまわしかけ、銀の器に盛ったことでしょう。蓋をされた削り氷を、急ぎ清少納言が定子のもとに運びます。銀の器は結露してきらきらと輝き、蓋をとると半透明の氷に黄金色のあまづらが映える。まさに「あてなるもの」とは思いませんか?


※記載内容はすべて掲載時のデータです。

(出典:「旅行読売」2024年8月号)
(Web掲載:2024年8月25日)


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