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【世界の絶景遺産】故宮 清のラスト・エンペラーが暮らした「紫禁城」(中国)

場所
【世界の絶景遺産】故宮 清のラスト・エンペラーが暮らした「紫禁城」(中国)

太和殿

 

シンメトリーを描く世界最大の木造建築群

明・清代の中国皇帝の宮殿が、故宮である。中国の首都・北京の中心部、天安門の北に位置する。皇帝の住居を意味する「紫禁城(しきんじょう)」とも呼ばれる。

入り口にあたる午門をくぐると、外部の喧噪(けんそう)とは別世界だ。白い石畳の先に、瑠璃瓦(るりがわら)の巨大な建物が連なっている。ここが特別な場所であることが肌で感じられ、歴史の世界に迷い込んだような錯覚を覚えてしまう。

故宮を建造したのは、明朝3代皇帝・永楽帝である。一通りの完成をみたのは、15世紀前半頃だ。

建物は、南の午門(ごもん)から北の神武門までを貫く直線を軸に、左右対称に配置されている。宮殿は、大きく南北に分かれている。南側の「外朝(がいちょう)」では国事行為などが行われ、北側の「内廷」では日常政務などが執り行われた。全部あわせて、980あまりの建物があるという。

故宮のシンボルは、外朝の中心にある太和殿だ。白大理石の基壇にそそり立ち、皇帝の即位など重要な儀式がおこなわれた。中国最大の木造建築物とされ、中華帝国の威厳を感じさせる。17世紀末に改築された建物が現存している。

午門
太和門前の聖獣の獅子像

皇帝たちが日々を過ごした内廷

ただ、故宮の面白さは、国威を発揚した外朝よりも、皇帝や妃たちが日常を過ごした内廷にあるのではないだろうか。太和殿のような象徴的な建築物はないが、日常的に使われた家屋が並んでいて興味深い。石畳の路地に深紅色の建物が軒を連ねる様子には、雅(みやび)やかな生活感すら漂う。小さな庭園では、いまにも路地裏から子どもが飛び出してきそうだ。

内廷の中心的な建物は乾清宮(けんせいきゅう)で、最初は皇帝の寝室だったが、後に執務室となった。玉座の上には清朝3代皇帝・順治帝の筆による「正大光明」の額がある。5代雍正(ようせい)帝以降、この額の裏の小箱に、次期皇帝の名を記した紙を入れて封をしていたという。後継争いが起きないようにするためだ。

故宮の最後の居住者は清の第12代にして最後の皇帝、宣統帝溥儀(せんとうていふぎ)である。1908年12月に2歳で即位し、1912年2月に退位した「ラスト・エンペラー」だ。清朝崩壊後も故宮に住み続けていたが、1924年の動乱を機に退去を命じられた。その後の故宮は、博物館として保存されている。

近代の東アジアの動乱のなかで、故宮が破壊を免れて残されてきたことは、僥倖(ぎょうこう)というほかない。おかげで私たちは、近世の中華帝国の栄光を、今も体感できるのである。

文・写真/鎌倉 淳

皇帝たちが暮らした内廷
正大光明の額

【旅行データ】

故宮は、中国の首都北京にある。北京へは羽田空港からJAL、ANA、中国国際航空、海南航空の直行便があり、片道3時間程度。成田空港からは、中国国際航空、海南航空のほか、スプリング・ジャパンの便がある。故宮は市中心部にあり、地下鉄1号線天安門東または天安門西駅から天安門をくぐって徒歩10分程度。


Writer

鎌倉淳 さん

1969年、東京都生まれ。旅行総合研究所タビリス代表。放送局記者を経て、世界の観光エリアや航空・鉄道に関する取材を続けている。著書に「死ぬまでに一度は行きたい世界の遺跡」(洋泉社)など

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