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【新・日本の絶景】摩耶山・マヤ遺跡ガイドウォーク

場所
> 神戸市
【新・日本の絶景】摩耶山・マヤ遺跡ガイドウォーク

旧摩耶観光ホテル4階の余興場。2016年公開の映画「デスノート Light up the NEW world」のロケ地

幾多の歴史を包み込み、自然と一体化する変容の美

六甲山地の中央に位置する標高702メートルの摩耶(まや)山。山頂近くの掬星(きくせい)台展望台からの見事な夜景は神戸自慢のナイトスポットである。しかし摩耶山の顔はそれだけではない。

かつては修験(しゅげん)の霊場として旧天上寺が築かれ、最盛期には年間50万人の参詣客が訪れた。1925年には摩耶ケーブルが敷設され、茶店や宿泊施設などが次々と造られた。さらにその4年後にはケーブルの終点近くに「マヤカン」こと摩耶観光ホテルが開業。これら歴史の遺構は今ひっそりと原生林の中で眠っている。

この痕跡を「マヤ遺跡」と名付け、その文化的価値を広めたいと地元有志が始めたのが「摩耶山・マヤ遺跡ガイドウォーク」だ。掬星台展望台から約2時間かけて山を下りながらマヤ遺跡を巡るツアーに参加した。

最初に現れるのが、旧天上寺の遺構だ。天上寺は806年、弘法大師が釈迦の母・摩耶夫人(ぶにん)の像を安置し創建。約3000人の僧を擁する大寺院だったが、1976年の放火により堂宇のほとんどが焼失、現在は摩耶別山に再建されている。本堂跡や護摩堂跡、唯一焼け残った仁王門などを見学。周辺には山の湧き水を貯めて濾過(ろか)した装置や、僧らが使った五右衛門風呂なども残っている。

「仁王門に続く参道はかつて大変賑(にぎ)わいましたが、55年に山の中腹と山頂を結ぶロープウェイが開業すると、参詣者が途絶えてしまいました。往時人気だった参詣客用の『摩耶花壇』というレストランと大浴場を有する施設の跡が残っています」と説明するのは、ツアーを主催する「摩耶山再生の会」事務局長の慈(うつみ)憲一さん。風呂部分のコンクリート土台を特別に見学。現在、新たな観光拠点として整備が計画されているという。

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このツアーでしか見られない「摩耶花壇」の展望風呂跡

そしていよいよ最大の注目遺産である「マヤカン」へ。摩耶観光ホテルは、29年に「摩耶倶楽部(くらぶ)」として竣工。61年に全面改装し再オープン。しゃれた余興場や屋上ビアガーデンなどを備えた山上リゾートだった。しかし67年、豪雨被害に遭い閉館。その後「摩耶学生センター」として転用されたが、93年に廃業し建物は放置され残った。ツアーではその4階部分に入ることができる。

柵の鍵を開けて近付く。丸窓や曲線を用いた外観から「廃墟の女王」と称されるその姿は、意外とこぢんまりしている。内部に足を踏み入れると、目の前には余興場だった大空間が広がる。生バンドの演奏や映画上映もされた豪華な間で、アーチ型の窓が印象的なアールデコ調のデザインがちりばめられている。

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地元有志の尽力で国の登録有形文化財に登録された旧摩耶観光ホテル

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華やかなりし頃を彷彿とさせる旧摩耶観光ホテル内部 ※この部屋はツアーで見学できない(写真/前畑温子)

20年余り、人々の記憶から失われつつあった「マヤカン」は、廃墟となり不法侵入が相次いだが、摩耶山のシンボルをなんとか残そうという慈さんらの尽力で建造物としての価値が認められ、2021年、国の登録有形文化財となった。廃墟が認められることは極めて珍しく、今や映画やドラマのロケ地として知られる。

足元には壁や天井の破片が散らばり、野草が生い茂り建物を侵食する。圧倒的だった人工物がまるで山の一部のようになり、朽ちていくことは自然に還(かえ)ることと合点する。廃墟の美は今この瞬間に出合う絶景なのだと痛感しながら、下山。すれ違った上りのケーブルカーは夜景見物の客を運んでいた。

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1000万ドルの夜景といわれる掬星台展望台からの神戸の景観(写真/神戸観光局)

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摩耶ケーブル虹の駅と星の駅を結ぶ摩耶ロープウェー(写真/神戸観光局)

👟摩耶山・マヤ遺跡ガイドウォーク

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写真/前畑温子

登山道を2時間ほど下山しながら「マヤ遺跡」を巡るツアー。13時20分摩耶ケーブル駅集合、17時虹の駅解散。参加費4500円。15人先着順。申し込みは3週間前から、こちらの公式サイトで受付。

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摩耶ロープウェー星の駅に隣接するカフェ。カウンター越しに大パノラマが広がり、10種のスパイスとココナッツミルクを用いた人気のカレーライスやスイーツなどが味わえる。一角には、旧摩耶観光ホテルのキーホルダーやポストカードなどを販売するコーナーがある。
■11時~16時30分(11月3日~3月19日の金曜~日曜、祝日は~18時30分、夏季と金曜~日曜、祝日は~19時30分)/火・水曜休(祝日の場合は営業)/摩耶ロープウェー星の駅からすぐ/TEL:078-806-3051


摩耶山【ベストシーズン】通年

営業:摩耶ケーブル始発10時、終発20時(曜日・季節により異なる)/火曜(祝日の場合翌日)休/ケーブル、ロープウェー全区間往復1560円
交通:山陽新幹線新神戸駅から神戸市営バス18系統15分、摩耶ケーブル下下車すぐ ※駐車場なし。公共交通機関を利用
住所:神戸市灘区摩耶山町2-2
問い合わせ:TEL 078-861-2998(まやビューライン

文/関屋淳子

※記載内容は掲載時のデータです。

(出典:「旅行読売」2025年2月号)
(Web掲載:2025年5月14日)


Writer

関屋淳子 さん

ウェブマガジン「旅恋.com」編集長。フリーランスを経て2010年に(株)旅恋を設立。生活情報誌、書籍、ウェブの編集や執筆、テレビ番組のナビゲーターなどを行う。温泉ソムリエ、温泉入浴指導員(厚生労働省認定)

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