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JR九州の観光列車「或る列車」が運行10周年。由布院~博多を走る“幻の列車”で極上のコース料理を味わう

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JR九州の観光列車「或る列車」が運行10周年。由布院~博多を走る“幻の列車”で極上のコース料理を味わう

由布岳をバックに走る「或る列車」(写真/ピクスタ)

 

贅を凝らしたD&S列車で、夏の美味とおもてなしに酔う

ゴールドがかった黄色い車体。ゆるやかなカーブを描いたレトロモダンな窓。唐草模様のあしらい。見る者の心を惹きつける瀟酒な佇まいは、過去と現代をつなぐ“幻の列車”―――。由布院駅に停車するJR九州のD&S列車「或る列車」だ(※)。この日は、運行10周年を迎えるにあたって企画された、記念プランの体験乗車に参加した。

※JR九州の観光列車はD&S列車(デザイン&ストーリー列車)と呼ばれる。

由布院駅に停車中の「或る列車」

この列車が“幻の列車”と呼ばれるのはなぜか。ストーリーの始まりは、1906(明治39)年。当時の九州鉄道が、米国・ブリル社に豪華な列車を発注したことに遡る。

窓の上部に施されたステンドグラス、木をふんだんに用いた内装、床には絨毯(じゅうたん)が敷かれ、特別車にはピアノを設置……。贅(ぜい)を凝らした車体を完成させたものの、翌年の九州鉄道の国有化によって、一度も使用されることなく、東京・田町の操車場に置かれていた。それが、「九州鉄道ブリル客車」、通称「或る列車」だ。

車体の意匠に細かいデザインが施されている「或る列車」

そんな歴史を持つ豪華列車が復刻を果たしたのは、2015年のこと。「鉄道模型の神様」という異名を持つ収集家の原信太郎(はらのぶたろう 1919-2014年)氏は、少年時代、田町の操車場に通っては「或る列車」のスケッチを描いていた。そのスケッチからつくった模型をもとに、原氏のコレクションを展示する「原鉄道模型博物館」副館長の原健人氏の協力を得て、工業デザイナーの水戸岡鋭治氏が車両のデザイン・設計を担当し、新たな車両がつくられた。

当初はスイーツトレインとして、長崎-佐世保駅間と大分-日田駅間を運行。2021年からは「極上の旅」によりスポットを当てて博多-由布院駅間にルートを変更し、コース料理を提供するようになった。

2025年8月に10周年という節目を迎えるにあたり、改めてその魅力を味わうべく由布院駅発、博多駅行きの列車に乗車した。

組子細工などの伝統工芸が内装に施されている

列車は2両編成で、1号車はメープル材を配した開放的な空間が広がる。格天井(ごうてんじょう)など、内装は日本の伝統的な建築をモチーフにしており、隅々まで伝統細工が施されている。

格天井が特徴的な1号車
ハートをモチーフにしたマーク

2号車はがらりと趣が変わり、福岡県大川市の伝統工芸・組子のウォールナットが落ち着きを見せる、個室を配したプライベートな空間となっている。

個室を配した2号車
アメリカ・ブルマンカーの特徴だったステンドグラスは、当時の「或る列車」でも実際に使われていたもの

揺れる車体に流れるクラシック音楽。旅をワンランク上へと押し上げてくれるのが、サービススタッフのきめ細やかなもてなし、そして自然環境をテーマにした料理で国内外から注目を集めている成澤由浩シェフ監修のコース料理だ。

スタッフのホスピタリティも魅力
6・7・8月に提供される夏メニュー

この日いただいたのは、8月10日の記念運行の際にも提供される夏のコース料理(「或る列車」の料理は春夏秋冬の年4回変更)。九州各地の生産者から仕入れた旬の食材を主役にした内容だ。

「長崎県新ジャガイモと新玉ねぎの冷たいポタージュスープ、鹿児島県ムラサキウニとコンソメゼリー」「九州の海の幸のパエリア、大分県サフランの香り」など、繊細な味わいに仕立てた料理は美味。かつてスイーツ列車として車体を走らせていただけにデザートの完成度も高く、甘美な余韻を残してくれる。

佐賀のみつせ鶏と夏野菜のトマト煮込み。福岡・糸島のバジルが香り豊か。宮崎・都城ワイナリーファームの赤ワインと共に。うつわやカトラリーも、九州各地の作家によるハンドメイド
宮崎のマンゴーと沖縄のパイナップルを使ったスイーツ。ココナッツやタピオカを合わせた爽やかな味わい。長崎市「瑠璃庵」のガラスのうつわが目にも涼しげ

列車は久大線を西へ進む。車窓に山並や滝が映り、のどかな田園風景を過ぎ、川を渡ると、やがて博多の街並みへと景色が変わっていく。3時間の旅はまたたく間に終わり、旅情を噛み締めながら列車を降りた。

10周年記念特別ツアーは8月10日に開催予定(通常運行は通年)。この日は成澤シェフから直接料理や「或る列車」へかける熱い想いを聞けるのはもちろん、特別なウェルカムドリンクや手土産もある。きっと、黄金色の車両が最高の思い出を運んでくれるはずだ。

文・写真/三浦 翠

 

記念乗車証のスタンプ

【成澤由浩シェフと乗車!『或る列車』10周年記念特別ツアー】

■乗車特典
・成澤由浩シェフとの触れ合い
・この日だけのウェルカムドリンク提供
・手土産に成澤シェフ監修のレトルトカレー「NARISAWAカレー」プレゼント

■出発日:2025年8月10日(日)
■最小催行人員:13人
■運行区間:博多10:58発→由布院14:08(片道)
■料理:夏のコース料理を提供
■旅行代金:【1号車】2人利用テーブルプラン5万円・6万2000円、4人利用テーブルプラン5万円【2号車】1人利用個室プラン5万6000円、2人利用個室プラン5万円・6万2000円
■申し込み方法:インターネット予約にて先着順(クレジットカード決済限定)【JTB BÓKUN 予約サイト

※上記の金額は中学生以上・小学生以下は乗車不可
※「或る列車」は通常、土~月曜を中心に博多―由布院駅間を1日1往復運転。予約は公式ホームページから

 


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