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九州縦断食いだおれ!復活した南阿蘇鉄道を再訪(1)【フリーきっぷであの駅へ】

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九州縦断食いだおれ!復活した南阿蘇鉄道を再訪(1)【フリーきっぷであの駅へ】

雄大な阿蘇の山々を見ながら走る南阿蘇鉄道。南阿蘇白川水源駅は白川水源の最寄り駅で、歩いて13分ほど(写真/南阿蘇鉄道)

 

  

やすこーん=文

青森県生まれ。2008年の「寝台特急はやぶさ」乗車をきっかけに「乗り鉄漫画家」として活動。駅弁・駅そばのイラストエッセーを描き、テレビやラジオにも出演。著書に『おんな鉄道ひとり旅』(小学館)、『メシ鉄!!!』(集英社)、『やすこーんの鉄道イロハ』(天夢人)など。

 

旅名人の九州満喫きっぷで4760円お得!博多発2泊3日

九州のJRと私鉄が乗り放題になる「旅名人の九州満喫きっぷ」を使って九州縦断の旅に出た。途中で駅弁をいくつか食べるため、旅の計画と共に食のプランもしっかり立てた。

最初に下車したのは門司港駅。この駅舎の佇(たたず)まいが大好きで、もう5回は来ている。ネオルネサンス様式を取り入れた左右対称の駅舎は、1988年に国の重文に指定されている。真っ白なウェディングドレスを着た花嫁と、花婿が、駅舎をバックに記念撮影をしていた。こういう風景を見かけるのは2度目だ。それだけこの駅舎が絵になるのだろう。

1914年に門司駅として移転開業し、42年に現在の名称になった(写真/ピクスタ)
小倉駅名物のかしわうどん

小倉駅まで戻り、7、8番線ホームで北九州名物「かしわうどん」を食べる。甘く炊かれたかしわ(鶏肉)が実にうまい。うまみが溶け出したスープは飲み干してしまった。

小倉駅からは北九州モノレールで終点の企救丘(きくがおか)駅へ。徒歩5分の志井公園駅から日田彦山線に乗り、添田―日田駅間の約40キロは、昨年夏に開業した日田彦山線BRTに乗車する。2017年の九州北部豪雨で被災し不通になっていた区間だ。BRTは時には川と並走し、緑の森の中を進んでいく。レールはなくなってしまったが、見える景色は変わらない。日田では駅前の寶屋(たからや)で予約していた「きこりめし」弁当を受け取った。真ん中に丸太のような茶色の太いゴボウがのり、付属の木製のこぎりで切って食べる。

日田彦山線BRT(バス高速輸送システム)の筑前岩屋駅(写真/ピクスタ)

久大(きゅうだい)線で大分駅、そして日豊線で別府駅へ。別府駅からすぐの温泉施設「駅前高等温泉」が今日の宿だ。外観は洋風だが、部屋は畳敷き。温泉の泉質は単純温泉で、日帰り客が多く利用していた。宿泊者は温泉にいつでも入れるのがうれしい。

  

2日目の朝食も駅弁にした。竹瓦(たけがわら)温泉の目の前にあるカフェ「TAKEYA(たけや)」が作る「別府湾弁当 たみこの夢弁当」は、予約すれば別府駅で受け取れる。

別府湾弁当 たみこの夢弁当

7年ぶりに全線で運転を再開した南阿蘇鉄道

豊肥(ほうひ)線を乗り継いで立野(たての)駅に向かい、今回の旅の1番の目的、南阿蘇鉄道に乗車する。熊本地震で被災し、昨年7月、約7年ぶりに全線運転を再開した。実は地震の翌年、現地の復旧工事の着工式に出席し、その時の様子をルポ漫画として小学館の雑誌で描き下ろした。漫画家117人が色紙に描いた応援イラストのラッピング車両「がんばれクマモト!マンガよせがきトレイン」に私が参加していた縁もあり、全線復旧した姿を見たかったのだ。

ついに不通だった立野―中松駅間を乗り通せると思うと感慨深い。立野駅で待ってくれていたのはデビューしたばかりの新型車両MT-4000形。車内は新しい車両の匂いがし、座席もフカフカで座り心地が良い。変わったのは車両だけではない。立野駅を出てすぐ、右手に大きなダムができていた。トンネルのあった犀角(さいかく)山は山ごとなくなり、景色が広がった。

南阿蘇鉄道の新車両から見える景色も新鮮に感じる
南阿蘇鉄道の第一白川橋梁(きょうりょう)を渡るトロッコ列車「ゆうすげ号」(写真/松尾 諭)

中松駅でいったん下車し、駅舎にあるカフェ「ひみつ基地ゴン」を訪ねる。前回お会いした店主の髙嶋千恵さんと再会を喜び、ランチに「猪(いのしし)の燻製入りゴンのカレーセット」をいただきながら、話を聞いた。

「ここが折り返し駅としてお客さんや運転手さんの休憩に使われたことは、ほかの駅にはなかった経験で、みなさんとの交流がより深まりました。列車と人と地元をつなぐのが駅の役割。もっと地元の方にも気軽に利用してもらえる駅と列車を目指したいです」

再び列車に乗り、終点の高森駅へ。とんがり屋根の駅舎は、真っ白な近代的な建物に変わっていて驚いた。駅舎内、赤絨毯(じゅうたん)が敷かれたスペースの壁一面には、かつてラッピング車両に使われた錚(そう)々たる漫画家たちのサイン色紙がズラリ。私のサインは、「ゴルゴ13」でお馴染(なじ)み、さいとう・たかを先生の上にあった。なんと恐れ多い。

「とにかく広いプラットホーム」がコンセプトの高森駅
高森駅に飾られている漫画家たちの応援サイン色紙。上段左から2番目に著者の色紙もある

「地元の学生さんや通勤で使う方が列車に戻ってきました。不通区間沿線に住んでいたおばあさんが、今まで家にこもっていたのに、列車の音を聞きに行くために畑仕事に出るようになったという話も聞きました」と南阿蘇鉄道の営業主任兼運輸助役の山本英明さん。列車が通るということは、人々の日常も取り戻すことになるのだ。

文/やすこーん(漫画家) 写真/森田公司ほか

 

九州縦断食いだおれ!復活した南阿蘇鉄道を再訪(2)【フリーきっぷであの駅へ】へ続く(8/17公開)

 

使ったのはこのきっぷ!

旅名人の九州満喫きっぷ ◉1万1000円

九州内のすべての鉄道(快速・普通列車の普通車自由席)に1日乗り放題。3回分で1枚(1回分は約3670円に相当)。1人で3回使うか、同一行程の3人グループの日帰り旅にも使える。青春18きっぷに似ているが、私鉄にも乗れる点と通年利用できる点が異なる。新幹線や特急、南阿蘇鉄道のトロッコ列車、肥薩おれんじ鉄道「おれんじ食堂」には乗れない(別料金)。JR九州の駅や旅行会社などで通年販売。
■期間:通年。有効期間は発売日から3か月以内
■問い合わせ:JR九州案内センターTEL0570-04-1717


【駅前高等温泉】

1階が温泉、2階が宿泊施設となっている。温泉は「あつ湯」「ぬる湯」とあり、それぞれ別料金。宿泊予約は電話のみ。素泊まり3100円(金曜~日曜と祝日は3600円)。■温泉は6時~24時/年3回休(不定休)/あつ湯、ぬる湯各250円/日豊線別府駅から徒歩2分/TEL0977-21-0541

【秘密基地ゴン】

中松駅の駅舎にあるカフェ。メニューは地元素材を使ったメニューが多く、ジビエ肉の「ゴンのカレー」「キーマカレー」(共に普通盛りセットで1200円)が名物。■11時~16時/祝日を除く月曜~木曜休/南阿蘇鉄道中松駅の駅舎内/TEL050-7123-0655

 

●モデルコースは2024年5月15日現在の時刻表を基に作成しました。掲載している路線名は主なものです。
●「~円お得」は、モデルコースを通常の鉄道運賃・料金で回った場合と、お得きっぷを使った場合との差額です。
●施設の営業時間は、最終入館やラストオーダーがある場合は、その時間を記しています。

※記載内容はすべて掲載時のデータです。

(出典:「旅行読売」2024年7月号)
(Web掲載:2024年8月16日)


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