【旅する喫茶店】城の眼(香川)

複数の作家の作品が調和した店内。イスもテーブルも創業当時からのもの
現代アートがあふれる空間で過ごすひと時
「振り返ると、あっと言う間でしたね」。城の眼の店主・馬場順子さんは柔らかく品のある口調で語るが、「振り返る」歴史は、60年以上になる。店がオープンしたのは1962年。馬場さんはオープン時からここで働き、やがて店主になった。城の眼ひと筋の人生を送ってきた。
建築や現代アートのファンからも注目される店の設計は、香川県庁舎にも携わった建築家・丹下健三の弟子にあたる山本忠司(ただし)。店内に入って正面に見える壁は、64年にニューヨークで開かれた万国博覧会の日本館外観のために、彫刻家の流政之(ながれまさゆき)がこの場で試作した石彫レリーフ。入り口両脇の巨大なスピーカーは一つ3トンの庵治(あじ)石でできている。横壁には松の一枚板があしらわれ、石と木が織りなすアートな空間が広がる。そのたたずまいは開業時から今まで少しも変わっていないという。
コンクリートに幾何学的な装飾を施した外観
当初のグレーから、タバコの煙などで変色した庵治石のスピーカー。庵治石は高松市で切り出される花崗(かこう)岩で、今では貴重な素材
馬場さんは、この店に集う芸術家たちの議論を耳にしながら過ごしてきた。晩年は牟礼(むれ)町にアトリエを構えた芸術家のイサム・ノグチもしばしば訪れた。「彼の定席よ」と案内された席は店の中央。スピーカーからの音が最もバランス良く聴こえ、天窓から柔らかな光が落ちる。
店が面する通りの名前は、高松市美術館があることから「美術館通り」。今年は瀬戸内国際芸術祭の開催年でもあり、アートに浸る旅の締めくくりに訪れてはいかがだろう。
文/渡辺貴由 写真/齋藤雄輝
ブレンドコーヒー500円とチーズケーキ500円
城の眼
香川県高松市紺屋町2-4
TEL:087-851-8447
営業:9時~18時/日曜、祝日休
交通:予讃線・高徳線高松駅から徒歩10 分
※記載内容は掲載時のデータです。営業時間、料金は変更になる場合があります。
(出典:「旅行読売」2025年8月号)
(Web掲載:2025年7月27日