続・フランスワインさすらい旅(3)

シャトー・ローザン・セグラの壮麗な建物は必見。庭園には約2000種の植物があり、季節ごとに花が咲き誇る
本場ボルドーのシャトー巡り 夢のような気分で飲み比べ
内田修さんがワイン造りに励むフランスのボルドーは、世界最大の高級ワインの産地だ。パリ万博が開催された1855年、ボルドーワインの格付け制度が始まった。現在も「5大シャトー」と呼ばれる第1級の名門を頂点に、厳格な格付けがされている。世界的に評価されようと、またいくら高値で取引されようと、新参者は同列で語ることはできない。それだけ格付けは絶対なのだ。
私は今回の渡仏を前に5大シャトーを含む18軒の格付けシャトーとメールでやり取りし、そのうち7軒のシャトーに訪問できることになった。ボルドー市を拠点に、シャトー巡りの旅に出た。ちなみに、「シャトー」とは本来はフランス語で「城」を意味するが、ボルドーではブドウの栽培からワインの醸造、瓶詰めまでを行う生産者のことを指す。

最初に向かったのは、ボルドー地方の東部、ドルドーニュ川沿いのワイン産地サンテミリオン地区。世界遺産に登録された街並みやブドウ畑に中世の面影が残る。この地区で格付け最上級のシャトー・フィジャックを訪れ、2018、22年のビンテージワインを試飲させてもらった。高級感があり、このエリアでは頭ひとつ抜けた存在という印象を受けた。
次はボルドー市内から南へ50キロほど離れたソーテルヌ地区へ。この地区の格付け第1級のシャトー・リューセックを訪れた。伝統的にこの地域は甘口の白ワインを作るが、一方では常識を打ち破り、ワインに氷を入れて飲むことを提案していることでも知られる。試飲すると、酸のレベルが高く保たれていて心地いい。ブルーチーズやアンチョビなどの濃厚な味の食べ物に合いそうだ。
リューセックにほど近いレストラン「ル・サプリアン」で昼食をとった。シャトー・ギローのブドウ畑を眺めながら食べる鳩料理は、忘れられない味になった。
午後は、同じソーテルヌ地区で格付け第1級のシャトー・クリマンを訪れた。土壌の説明が終わると、10数種のハーブを乾燥させている屋根裏部屋に案内された。複雑な香りが漂う。試飲した白の辛口は、スモーキーな風味が特徴。天ぷらなどの和食にもぴったりだろう。

ボルドー市の北部、ジロンド川左岸には、日本でも有名な高級ワインを産出する村が並ぶ。その一つ、サンテステフにあるメドック地区の第4級格付けのシャトー・ラフォン・ロシェへ。黄色い建物がひときわ印象的だ。2002~22年のビンテージを試飲したが、やはり02年のビンテージに最も特徴があった。果実味がしっかりあり、とてもピュアでエレガントだった。



旅の終盤は、マルゴーへ足を延ばし、3軒のシャトーを回った。シャトー・デュルフォール・ヴィヴァンは、メドック地区で第2級の格付け。熟成庫には、樽とアンフォラという素焼きの熟成壺が並ぶ。試飲すると、自然派のワインで力強い味わい。長い余韻が印象的だった。
シャトー・フェリエールは、第3級の格付け。生産本数が少ないため、幻ともいわれるワインだ。アンフォラで熟成させた若いワインと2018年のビンテージを試飲したが、脂ののった魚に合わせたいと思った。特に若いワインは初心者の私にもとても飲みやすかった。

シャトー・ローザン・セグラは、格付け第2級で5大シャトーに次ぐ6番目。高級ファッションブランドのシャネルが経営する壮麗な建物と庭園が魅力のシャトーだ。試飲に2017年と19年のビンテージを出されたが、19年の方が気に入った。案内の女性が驚いた表情で「なぜ?」と聞く。熟成している感じがするというと、女性は納得して両年の気象データを持ってきた。ブドウの育成に適していたのは、19年だった。
今回、憧れのシャトーを巡り、手厚いもてなしを受けた。試飲するワインはどれも格別な味わいだった。「5大シャトー」への訪問こそ叶わなかったが、ワイン好きにとって至福の旅を満喫することができた。そんな伝統と格式を重んじるこの地で、内田さんはワインスクールの講師を任せられるほどの信頼を得ている。今後の活躍ぶりに注目していきたい。
文・写真/太田正行
ボルドーワインの格付け
格付けが始まった1855年はボルドー全域が対象だったが、現在では4地区に分かれて格付けされている。そのうち、メドック地区は第1~5級の5段階で、61軒のシャトーが対象となっている。「5大シャトー」と呼ばれるシャトー・マルゴー、シャトー・ラフィット、シャトー・ムートン、シャトー・ラトゥール、シャトー・オーブリオンは、メドック地区の第1級の格付け(シャトー・オーブリオンはグラーヴ地区)。
(Web掲載:2025年9月14日)
<旅のインフォメーション>
・アクセス/東京からパリまでのフライトは直行便で14~15時間。現在3社(エールフランス、全日空、日本航空)が運航している。パリ-ボルドーの国内線は約1時間で、1日20便ほど。パリ-ボルドー間の高速鉄道(TGV)は約3時間。
・時差/夏は日本より7時間遅れ。冬は8時間遅れ。
・ビザ/観光目的の旅(3ヶ月以内の滞在)なら不要。
・パスポート/フランスを含むシェンゲン協定加盟国出国予定日から、3ヶ月以上の残存有効期間が必要。
・通貨/ユーロ(€)1ユーロ=172円(2025年8月28日現在)
・気候 7月の平均最高気温27度、1月の平均最低気温3度