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続・フランスワインさすらい旅(2)

場所
> ボルドー
続・フランスワインさすらい旅(2)

「失敗したら潔く日本へ帰ろうと思ったら気持ちが楽になった。人生一度きり。とにかく1年だけはやりきろう」と1年目の心境を振り返る内田さん

駅伝で鍛えた鋼の肉体と魂 ワインの聖地で地歩を築く

続・フランスワインさすらい旅(1)から続く

「心が折れそうなときは走りました。難題をどう解決するのかを、ランニングしながら考えたのです」

フランス・ボルドーのワイン生産者、内田修さんは岡山県の興譲館高校駅伝部の出身だ。しなやかで強固な魂のルーツは、主将を務めた中学、高校時代にあるという。「毎日、きつい練習に耐えに耐えました」。厳しい状況に追い込まれたときには、その日々の記憶が支えになってくれた。

4~9月が農繁期。妻の理恵さんと力を合わせて作業する。最初の年は何もできなかったというが、地元の人々が手助けしてくれた

高校時代、日本だけを見ていてはいけないと、芸術、そして農業分野で歴史と伝統を持つヨーロッパに目を向けていた。実家が酒屋だったこともあり、関心はワインに傾いていった。

卒業と同時に語学留学のため、フランスの語学学校や高校に編入することを選択。フランスでワイナリー巡りをするうちにワイン造りの道を志すようになり、ボルドー大学醸造科のDUAD(醸造・栽培学を中心とした技能テイスティング免状)に進学した。留学中の7年間でワインに限らず国際人としての在り方について学び、卒業後はいったん日本に帰国。ワインを扱う商社に就職し、そこでワインを売り込むノウハウや実践的な知識を身に着けた。

「日本社会の厳しさや商いの精神の大切さを上司や先輩方に教わりましたが、やはりワイン造りの夢は捨てきれませんでした」。内田さんは再びフランスへ渡り、ロワール地方のワイナリーに住み込んで働いた。一区画の畑を任され、農作業を1人ですべてこなした。1年間そこで経験を積み、次に最もハードルが高いといわれるボルドーでワイン造りに挑むことを決意した。「ワインを造るなら、やはりボルドー。楽なところには、決して道はありません」と語る。

「ものを大切にするのが日本人の心」と内田さん。1970年代の中古トラクターを修理・改造しながら使い続ける

約20万円の資金でメドックの0.6ヘクタールの畑を借りた。自分で醸造したワインを売っては畑を買い取り、徐々に面積を広げていった。最初に借りた畑に無料で付いてきた中古トラクターは、今も修理を繰り返しながら使っている。

学生時代からフランス各地の約300か所のワイナリーを見学し、そのうち10か所ほどに住み込んで働き、ノウハウを蓄積した。それなりの自信を得ていた内田さんだったが、本場でのワイン造りは甘くはなかった。栽培から醸造、さらに経営までを自力で行うようになると、「毎日、すべてが苦労の連続でした」というほどだった。

醸造の工程もその年のブドウの出来によって柔軟に変えていく。必然的に銘柄も増える
研修先のワイナリーでは遠慮なく人の懐に飛び込み、自分なりのノウハウを蓄積したという。バイタリィーもワイン造りの源だ

そんな中、日本からワインを買って応援してくれる人々や地元の人たちの手助けに感謝する。先のことは考えず、1年目だけでもなんとかワインを完成させようと、全精力を傾けた。がむしゃらな努力と天候にも恵まれ、日本で知り合った理恵さんという伴侶の力添えもあり、内田さんの苦労は実を結び、彼のワインは世界に認められるまでに成長を遂げていった。
文・写真/太田正行

ボルドーワイン
フランス南西部のジロンド県全体で産出されるワインだけが、「ボルドーワイン」を名乗ることができる。ボルドーは年間を通して温暖で降水量が多く、ブドウ栽培に適している。総栽培面積は約12万ヘクタールで、年間生産本数は約7億本。そのほぼすべてが地域、ブドウ品種、栽培法、醸造法、試飲検査などの厳しい規定をクリアした「A.O.C.ワイン」で、フランス全土で生産されるA.O.Cワインの約26%をボルドー産が占める。

続・フランスワインさすらい旅(3)へ続く(9/14公開)

(Web掲載:2025年9月13日)


<旅のインフォメーション>
・アクセス/東京からパリまでのフライトは直行便で14~15時間。現在3社(エールフランス、全日空、日本航空)が運航している。パリ-ボルドーの国内線は約1時間で、1日20便ほど。パリ-ボルドー間の高速鉄道(TGV)は約3時間。
・時差/夏は日本より7時間遅れ。冬は8時間遅れ。
・ビザ/観光目的の旅(3ヶ月以内の滞在)なら不要。
・パスポート/フランスを含むシェンゲン協定加盟国出国予定日から、3ヶ月以上の残存有効期間が必要。
・通貨/ユーロ(€)1ユーロ=172円(2025年8月28日現在)
・気候  7月の平均最高気温27度、1月の平均最低気温3度


Writer

太田正行 さん

1959年生まれ。フリーランスのライターとして旅行ものなどを手がける。中央大学時代にサハラ砂漠でラクダを一頭買い、単独行で砂漠を約500km旅した経験を持つ。40歳代後半に農産物直売の会社を設立。独自のシステムを作り、時間にゆとりができた現在は、各方面に活動の範囲を広げている。

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