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【ひとり、秘湯へ】コラム 初めての人にもおすすめ!歩いてしか 行けない秘湯(秘湯探検家・渡辺裕美)

場所
  • 国内
  • > 北陸・中部・信越
  • > 長野県

> 南牧村、丹波山村、日光市
【ひとり、秘湯へ】コラム 初めての人にもおすすめ!歩いてしか 行けない秘湯(秘湯探検家・渡辺裕美)

私が秘湯にハマったのは...

私が秘湯にハマったのは〝野湯(やとう)の聖地〟と謳(うた)われる東北への温泉巡りの旅がきっかけだった。行った先は、森の中におもむろに置かれただけのポリバス(浴槽)、ジャグジーのように源泉が湧く掘っただけの野天風呂など。それらは全て未管理の温泉で、「野湯」と言われる。どれも、アクセス困難で目的地まで歩いて行くしかない。だが、つかってみると、湯の鮮度も景色も今まで経験したことがないほど極上で、どこか、温泉の概念を根底から覆されるような感動を抱いた。この経験以降、私は徒歩9時間かかる僻地(へきち)温泉も含め、全国の秘湯へ足を運ぶようになった。

不便さゆえ、得られる極上体験とは?

歩いて行く秘湯の魅力とは何か? 長時間の山歩き、電気が通らない所での入浴……。その不便さゆえ得られる非日常や感動体験がある。それを味わったら、「歩いて行く秘湯なんて……」と、ちゅうちょしているあなたもきっとハマるはず。

まずは、道中の自然との触れ合いから始まる。例えば、北海道なら大雪(たいせつ)山系に生息する「ナキウサギ」のかわいい姿に魅了され、思わずスマホのシャッターを押す。北アルプスなら、高山植物の花畑が登山道を飾ってくれる。このように、その時期・その土地特有の自然の風景を味わい、理解することで、秘湯までの歩きがグンと楽しくなる。

目的地に到着し、疲れを癒やしに温泉へ。すると、湯が驚くほど新鮮なことに気付く。そう、歩いてしか行けないような秘湯は、入浴者数が少ないため、〝源泉かけ流し〟はもちろん、〝一番湯〟のようなピュアな湯につかれることが多いのだ。

地中から湧いたばかりの温泉は、体が浄化されるような独特の肌触りで、香り・湯の華などもしっかりと残っている。「ふぅ、気持ちいい~」と思わず、心の声が漏れる。

真っ暗な夜の露天風呂にランプを灯(とも)して入浴することもよくあるが、明かりを消した瞬間、頭上に広がる星のきれいなこと……。不便な山奥の環境が無かったら、こんなに心に残る旅ができるだろうか?

初めてでも行きやすい秘湯3選

ここで、初めての人でも安心してチャレンジできる秘湯を紹介したい。

まず1軒目。「秘湯でも、美食は外せない」という人にぴったりな宿が、栃木県日光国立公園内にある「手白澤(てしろさわ)温泉」だ。まるでオーベルジュに泊まりに来たような、地元の野菜や肉を使ったディナーコースを楽しめる。湯量も豊富で、浴室にシャワーやカランはなく、24時間自噴する源泉をホースで注いで使う。宿への道中、鬼怒(きぬ)川源流に沿って遊歩道が整備されているので、美しい滝や紅葉を愛(め)でながら歩けるのもうれしい。

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手白澤温泉(栃木県日光市)
TEL:0288-96-0156
料金(1泊2食)2万6400円
交通:東武鬼怒川線鬼怒川温泉駅からバス1時間35分、女夫渕温泉市営

2軒目は、山梨県の雲取山の麓、秩父多摩甲斐(かい)国立公園内に立つ「三条の湯」。近くの河原で湧くアルカリ性の硫黄冷鉱泉を、灯油と薪(まき)で沸かしている。独特のトロッとした肌触りと硫黄臭のする湯は、山歩きの疲れを吹き飛ばしてくれる気持ち良さ。蛇口をひねって、フレッシュかつ加温していない源泉を好きなだけ自由に注げるのもぜいたくだ。周辺は、東京都水道局の水源涵養(かんよう)林で、美しい渓谷と森林が広がるのも魅力だ。

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三条の湯(山梨県丹波山村)
TEL:070-3979-5139
料金:1泊2食1万1000円
交通:奥多摩線奥多摩駅からバス38分、お祭下車徒歩3時間

最後は、長野県八ヶ岳の硫黄岳直下にある「湯元 本沢(ほんざわ)温泉」。おすすめはみどり池入口から歩くコース。途中のみどり池では、緑色の池と水面に映し出される天狗(てんぐ)岳の景色を楽しめる。標高2150メートル、日本一の高所にある露天風呂として知られる「雲上の湯」は、空に手が届きそうなほどの開放感が味わえる。弱酸性の肌に優しい硫黄泉につかり、目の前にそびえる硫黄岳を眺める時間は格別だ。

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湯元 本沢温泉(長野県南牧村)
TEL:090-3140-7312
住所:1泊2食1万1000円~
交通:小海線小海駅からバス40分、みどり池入口下車徒歩3時間

文・写真/渡辺裕美

※いずれも、山小屋です。登山装備のうえ、到着時刻など計画性を持って入山しましょう。

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渡辺裕美( わたなべ・ゆみ)
秘湯探検家。誰も行かないような秘湯や野湯にひとりで行くのが大好き。これまでに巡った温泉は国内外含め3000か所。著書に『わたしのしあわせ温泉時間』(メディアソフト)、『絶景温泉ひとり旅 そろそろソロ秘湯』(小学館)などがある。温泉番組の出演・監修、講演、旅行の企画協力なども幅広く行う。

※記載内容はすべて掲載時のデータです。

(出典:旅行読売2025年11月号)
(Web掲載:2025年12月9日


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