【旅と駅弁・駅麺】コラム 駅そばは永久に不滅です!(すずき・ひろき)
「本家しぶそば」には、さばコロッケ、究極おかか飯など限定メニューも多数ある
一度閉店した駅そばが「やっぱり必要だ」と見直され復活
新型コロナウイルス感染症に続き、収まらない物価高。駅そばを巡る環境は厳しい。鉄道輸送の落ち込みや労働力不足などの要因も加わり、かつて〝名店〟と評された駅そばが惜しまれつつ閉店してしまうケースが後を絶たない。
しかしながら、駅そばは単なる飲食店としての位置付けにとどまらず、駅に活気を生み出すカンフル剤の役割も果たす。駅そばの閉店は、駅のにぎわいが失われることにつながり、地域全体に暗い影を落とすことになりかねない。そのため、昨今、一度閉店した駅そばが「やっぱり必要だ」と見直され、復活を果たすムーブメントが巻き起こっている。そこで今回は、駅そばが復活した近年の事例をまとめて紹介しよう。
まずは、同じ事業者が同じ駅構内で復活したパターンだ。主に、駅改良工事などで一時閉店を余儀なくされたケースや、後継者不在、労働力不足で閉店した後に問題を解決して営業を再開するケースなどが当てはまる。前者は、上越新幹線新潟駅の「やなぎ庵」が代表例。新潟駅は在来線の高架化に伴う駅舎改築および駅前の再整備工事が現在も続く。「やなぎ庵」は旧万代(ばんだい)口駅舎の解体に伴い、2020年に一度閉店。しかし、駅舎が開業した23年、西口改札脇に場所を移して復活を果たした。

新潟駅「やなぎ庵」は落ち着いた外観ながら客数は多く、活気に満ちている
後者のパターンは、ほたてそばが名物の三陸鉄道久慈駅「三陸リアス亭」や天然だしが評判の京浜東北線桜木町駅「川村屋」などだ。どちらも店を閉めていた期間が短かったので、閉店したことを知らないファンも多いかもしれない。
次に、同じ駅構内で、事業者が変わって復活するパターンがある。典型例としては、阪急電鉄の各駅に出店していた「阪急そば」の全店舗が、19年に「若菜そば」へ転換されたケースがある。石北線遠軽(えんがる)駅「北一そば」や山陰線出雲市駅「出雲の國 麺家」など地方でもこの例が見られる。
駅そばの閉店によって駅がさびれてしまうことを危惧した地元の有志が引き継いだケースも多く、地域密着型の駅そばとして親しまれている。かつての駅そばの味を引き継ぐ店もあるが、オリジナリティーを重視する店が多いのも特徴だ。「若菜そば」も当初は「阪急そば」に準じた味やメニューで営業していたが、その後は独自路線に舵(かじ)を切っている。
特筆すべきケースとして、両毛線桐生駅にも触れておきたい。閉店した改札脇の駅そばの跡地に21年にオープンしたのは、日替わりで異なる事業者が入居して店舗を運営するシェアショップ「オーライ」。原則として毎週月曜に駅そば「名代おぎはらや」が営業している。営業日の決定が月単位であるため長期的な展望は不透明だが、週1日でも駅そばが復活営業しているのは注目に値する。

桐生駅構内の「オーライ」。毎週月曜の「名代おぎはらや」のほか、別の手打ちそば店が営業する日もある
街ナカで復活する名店も
最後に、駅周辺の街ナカで復活したパターンにも触れておこう。このパターンには、鉄道路線の廃止により駅そのものが消滅してしまった場合と、駅舎改築等により駅舎内に出店スペースがなくなってしまった場合がある。
前者は留萌(るもい)線留萌駅の待合室内から、駅舎の裏手に整備された道の駅「るもい」に移転することで復活を果たした「むさし家」が代表例だ。留萌線は23年に石狩沼田―留萌駅間が廃止され、むさし家は道の駅へ移った。道の駅には留萌線の歴史に関する展示コーナーがあり、鉄道ファンが名物のにしんそばをすする光景を、路線廃止となってもなお目にすることができる。

道の駅るもいの「むさし家」。そば、うどんに加え、弁当も販売する
後者は、東北線小山(おやま)駅のホームで営業していた「生(き)そば」が閉店した後に、その味を懐かしむ人々が足利市・宇都宮・小山といった各駅の近くで復活させた「おやまのきそば」が有名だ。店舗ごとに運営事業者は異なるが、いずれも小山駅時代と同じ麺、つゆ、天ぷらを提供している。
東京でも、東急東横線渋谷駅の顔として親しまれてきた「本家しぶそば」が、駅舎リニューアルに伴う閉店から5年を経て、25年9月に近くの道玄坂へ移転して復活を果たした。券売機を置かず、注文受付カウンターからマイクを使って肉声で厨房へ注文を伝える仕組みはエキナカ時代そのままで、独特の抑揚をつけたアナウンスを聞くだけで自然と涙がこみ上げてしまう。
パターンはいろいろあるが、駅そばの名店や駅のにぎわいを失いたくないという関係者の思いは共通している。この情熱の炎が燃えたぎっている限り、駅そばは逆風を受けて倒れてもまた立ち上がり、滅びることなどあろうはずがない。
文・写真/鈴木弘毅
※記載内容は掲載時のデータです。
(出典:旅行読売2025年12月号)
(Web掲載:2026年1月15日)


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