【伊東潤の 英雄たちを旅する】第29回 大隈重信と佐賀
1838(天保9)年に大隈重信(おおくましげのぶ)が誕生した生家(旧宅)は平屋葦葺(よしぶ)きに一部2階建ての瓦葺きの家屋。国の史跡に指定

プロフィール
伊東 潤(いとう じゅん)
1960年、神奈川県横浜市生まれ。歴史作家。2013年、『国を蹴った男』で吉川英治文学新人賞、『巨鯨の海』で山田風太郎賞を受賞。過去5回、直木賞候補となる。近著に、敗れ去った日本史の英雄たち25人の「敗因」に焦点を当て歴史の真相に迫るエッセー『敗者烈伝』(実業之日本社)などがある。
明治維新から富国強兵の原動力の一人となった大隈重信
幕末に青年期を迎えた若者たちによって明治維新は成し遂げられ、新政府に抜擢(ばってき)された者たちにより富国強兵策は一気に進み、日本は列強に伍(ご)していける国となった。その原動力の一人が佐賀藩出身の大隈重信だ。
維新後、政府の一員となった大隈は、近代化を早急に推し進めることを強く主張し、政府要人の尻を叩いた。これにより日本は急速な発展を遂げ、西洋諸国に負けない近代国家へと変貌(へんぼう)していった。
政府内での地位を確立した大隈は、太陽暦の導入、郵便制度の整備、富岡製糸場の設立、灯台の設置、度量衡(どりょうこう)の統一、教育改革など多くの政策に携わり、新生日本の基盤を築いた。
中でも白眉(はくび)は鉄道の敷設だろう。長きにわたる幕藩(ばくはん)体制によって、各県が心理的に縦割りのままだった日本に鉄道を貫通させることで、相互の垣根を取り除き、交流を盛んにし、産業や文化を一気に開花させた。
その後も大隈はイギリス式政党内閣の実現を主張するが、急速に近代化を推し進めようとするその姿勢を警戒され、政府内で対立が深まり、1881(明治14)年の「明治十四年の政変」で下野する。その後、大隈は立憲改進党を設立し、自由民権運動をスタートさせる。今度は野党という立場から、議会制民主主義の導入に向けて活動を展開し、1898(明治31)年には日本初の政党内閣を作り、総理大臣にまで上り詰める。そして「議会制民主主義の定着」「軍部の暴走阻止」「人材の育成」を唱えていく。
諸般の事情から第1次大隈内閣は短命に終わるが、1914(大正3)年に組閣した第2次内閣は約2年半も続き、数々の実績を挙げた。こうしたことから、大隈は国民の絶大な支持を獲得する。
そうした政治活動の傍(かたわ)ら、私学の雄・早稲田大学を創設し、有為の材を社会に送り出していった。
1922(大正11)年、大隈は83年の生涯に幕を閉じた。日比谷公園で行われた大隈の国民葬には、30万人を超える民衆が集まった。
大隈の出身地の佐賀県佐賀市には、関連史跡が多くある。まずは大隈重信記念館と大隈重信旧宅に行ってほしい。記念館には大隈ゆかりの品々が多数展示されている。武家屋敷の面影を残した旧宅には、大隈やその仲間が維新の荒波に乗り出す前に議論を重ねた屋根裏部屋がある。そこには、今も若者たちの熱気が籠もっている気がする。

記念館には大隈重信侯の義足、肉声録音、愛用したガウン、年譜などが展示されているほか、関連書籍のライブラリーもある

大隈重信の生誕125年を記念し、1967年に開館した大隈重信記念館。早稲田大学名誉教授・今井兼次博士が設計を手がけた

旧宅の前に立つ大隈重信侯之像
城下の龍泰寺(りゅうたいじ)は大隈家の菩提(ぼだい)寺で、大隈の墓所もある。近くの高傳寺(こうでんじ)は佐賀藩主鍋島氏の菩提寺で、鍋島氏の歴代の墓や副島種臣(そえじまたねおみ)の墓のほか、大隈が少年時代に登ったという「八太郎槇(まき)」と呼ばれる大木もある。

鍋島家の菩提寺、高傳寺は樹齢400年といわれる紅梅などが咲く梅の名所
今でも広い堀や石垣を残している佐賀城には、佐賀城本丸歴史館があり、鍋島氏ゆかりの品々が展示されている。ほかにも、佐賀市内には大隈や旧佐賀藩関連の史跡が多く残る。
佐賀に行き、何気ない街並みを歩いてほしい。この街角を青年時代の大隈たちが疾走していたと思うと、感慨もひとしおだろう。

佐賀城本丸御殿の一部を復元した佐賀城本丸歴史館
文/伊東 潤
写真提供/佐賀県観光連盟、大隈重信記念館
英雄メモ🖋
大隈重信(おおくましげのぶ)[1838 -1922]
明治・大正期の政治家。外相3回、首相2回を歴任。佐賀藩士の家に生まれ、長崎に遊学してアメリカ人宣教師に英学を学ぶ。新政府成立後は、大蔵卿、参議を歴任し、鉄道・電信の建設や幣制改革などにより殖産興業を推進した。「明治十四年の政変」の後、東京専門学校(現早稲田大学)を創立。1898年、板垣退助と憲政党を結成して日本最初の政党内閣を組織した。1914年に第2次大隈内閣を組織して第1次世界大戦への参戦を決めた。「民衆政治家」として親しまれ、死去後に日比谷公園で国民葬が行われた。
[大隈重信記念館への交通]
長崎線佐賀駅バスセンターからバス10分、大隈重信記念館入口下車すぐ
[観光の問い合わせ]
TEL:0952-20-2200(佐賀市観光協会)
※記載内容はすべて掲載時のデータです。
(出典:「旅行読売」2025年6月号)
(Web掲載:2026年2月2日)


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