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【温泉は人生の句読点だ!】冬だ!寒いぞ!それなら蒲田ブラックだ!蒲田温泉<東京>

場所
> 大田区
【温泉は人生の句読点だ!】冬だ!寒いぞ!それなら蒲田ブラックだ!蒲田温泉<東京>

この真っ黒な湯。これがタダ者ではない湯なのである。「低温湯」と書かれた浴槽の湯が、ときには44度超えの時もあったりして「どこが低温よ?」とツッコまずにはいられないが、これもまた“蒲田温泉の名物”なのだ。黒湯の肌触りがマイルドなので熱湯も気持ちいいんだなぁ

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プロフィール
岩本薫(いわもとかおる)

1963年東京生まれ。温泉研究家、作家、エッセイスト。温泉研究家といってもひなびた温泉にしか興味がない偏愛志向。主な著書に『もう、ひなびた温泉しか愛せない』『つげ義春が夢見た、ひなびた温泉の甘美な世界』『ヘンな名湯』『もっとヘンな名湯』(以上、みらいパブリッシング)『ひなびた温泉パラダイス』(山と溪谷社)等。メディアにも多数出演。ひなびた温泉マニアのグループ「ひなびた温泉研究所」のショチョーでもある。

その名も大田区温泉郷♨う〜ん、カッコいいなぁ

複数の温泉地が集まった地域のことを温泉郷という。有名どころでは別府温泉郷や箱根温泉郷、加賀温泉郷なんかがあるけれど、東京にも〝温泉郷〞があるって知ってます? あ、知っているというあなたは、かなりの温泉通かもしれない。それというのも温泉マニアが勝手に〝温泉郷〞と呼んでいる地域が東京にあるんです。その名も大田区温泉郷。う〜ん、カッコいいなぁ。

大田区には30軒以上もの銭湯があって、その多くが温泉銭湯だったりするのだ。れっきとした温泉でありながら銭湯なので、うれしいことに銭湯の料金550円で入浴できる。そんな大田区の温泉銭湯を愛してやまず、湯巡りする温泉マニアの人たちが、愛を込めて大田区温泉郷と呼んでいるのである。都内で湯巡りできるなんて、意外と知られていない。

さて、そんな大田区温泉郷の湯といえば黒湯。なぜ黒いのか? え〜、今を遡ること20万年、関東平野は地質学的に古東京湾と呼ばれる海の底にあったのですよ。その海の底に堆積した有機物が分解・発酵し、ドス黒いドロドロとなって溶け出した古代の海水が東京の地下に閉じ込められているんですね。これが黒湯の正体。とくに大田区あたりではたったの数10メートルから100メートル掘るだけで良質の黒湯が湧いてくる。

え? でも、そんなドロドロが溶け出した真っ黒な湯なんか大丈夫なの?と思う人がいるかもしれないけれど、心配無用。ていうか、これが実に体にいい湯なんだな。まず温熱効果。体が芯まで温まる。そして保湿効果や美肌効果も素晴らしくスベスベお肌になる。さらには疲労回復効果も素晴らしい。ま、ワタクシのドロドロって言い方がいけませんでしたねぇ。これを濃厚な海洋ミネラルって言い換えればなんとなく納得でしょ?(専門的にはフミン酸と言います)

そんな黒湯の宝庫である大田区で、温泉マニアから黒湯の聖地と呼ばれている銭湯がある。蒲田温泉。ここの黒湯はひときわ黒い。ほとんどブラックコーヒー。つまりそれだけ海洋ミネラルが濃厚なのである。

浴室もいかにも銭湯といった感じなんだけど、そこに真っ黒な湯が張られた湯船が異彩を放っている。浴槽は「低温湯」と「高温湯」に分かれている。が、ただ「低温湯」がぜんぜん低温じゃなかったりするんだな。42度以上は当たり前。44.5度とかの日もある。そう、そんなふうに表示がアテにならないのも蒲田温泉の愛すべきところなのだ。常連のじっちゃんが「今日は熱いよ〜」と、目を細めながら教えてくれる。

ところがつかってみると、確かに熱いけど、黒湯の肌触りがマイルドなので熱い湯のトゲトゲしい刺激がない。〝柔らかい熱さ〞なのだ(薪<まき>で湯を沸かしているのも湯の柔らかさの一因だろう)。そして、たちまち体の芯まで温まっていくのがわかる。おお〜、これはいい湯だなぁと思わずにはいられない。浴室にはサウナ用の水風呂もあるので、黒湯と水風呂の交互浴も楽しめて、これがまた、たまらないのだ。ワタクシも全国のいろんな黒湯につかってきたけど、蒲田温泉の黒湯はマジ、レベチですよ。

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人気の蒲田温泉Tシャツをはじめ、オリジナルグッズを売っている。さすがは黒湯の聖地である。Tシャツは俳優の二階堂ふみさんも着ていたよ

蒲田は湯上がり後もパラダイス!

さて、こんなワンダフルな黒湯につかったあとのビールやホッピーは、間違いなくうまいわけなんだけど、ここ蒲田温泉がある蒲田はですねぇ、うれしいことに呑兵衛(のんべえ)パラダイスな街でもある。

終戦時に闇市があった場所は、どこであろうと呑兵衛パラダイスへと発展していく。そう、進化論の収斂(しゅうれん)進化のごとく。新宿の思い出横丁然(しか)り、吉祥寺のハモニカ横丁然り、上野のアメ横然り、大井町の東小路飲食店街然り、三軒茶屋の三角地帯然り……で、蒲田にいたっては軍需工場の街でもあったから、戦時中は米軍から徹底的に空襲を受けて、焼け野原となり、まさに闇市から立ち上がってきたような街なのである。だからディープな飲み屋が今も残っていて、とくにバーボンロードと呼ばれる東急池上線のガード下は、涙がちょちょ切れるような呑兵衛パラダイスとなっている。鰻(うなぎ)の串焼きやきも焼きが300円ぐらいで食べられちゃうんだなぁ。ワタクシはこの蒲田の闇市=ブラックマーケットの名残の大衆グルメと、濃厚で良質な黒湯を、最大の愛を込めて密かに〝蒲田ブラック〞と呼んでいる。

サイコーの黒湯で体の芯まで温まり、湯上がりにビールやホッピーをガブガブ飲みながら、熱々の大衆グルメをハフハフとほおばる。ここでしか味わえない幸せ。いや、ここだからこそ味わえる幸せだね。たまらんねぇ。よくできた街じゃないか。嗚呼(ああ)、蒲田ブラックよ、永遠なれ!

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蒲田温泉の2階は休憩所兼食堂(火・水曜休)で、ここの釜飯がめっちゃうまい! この釜飯を食べてからバーボンロードに向かうのもアリだ!

文・写真/岩本 薫

♨今月のひなびた温泉

蒲田温泉 (東京)

◎料金:入浴550円(10時〜24時/無休)
◎泉質:ナトリウム―炭酸水素塩・塩化物冷鉱泉
◎アクセス:京浜東北線蒲田駅から徒歩13分、またはバス6分の蒲田本町下車すぐ
◎住所:東京都大田区蒲田本町2-23-2
◎TEL:03-3732-1126


※記載内容はすべて掲載時のデータです。

(出典:「旅行読売」2026年3月号)
(Web掲載:2026年4月6日)

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