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旅よみ 俳壇 旅行読売2026年6月号

場所
旅よみ 俳壇 旅行読売2026年6月号

早春のJR吾妻線金島駅(写真/ピクスタ)

【特選】

扉押す春一番の無人駅
 ◉伊予市 福井恒博
<評>春一番の強い風が古い駅舎を吹き抜ける。人影のない無人駅の静けさに、季節だけが勢いよく到着したようだ。小さな駅に春の力がふっと入り込む、その爽快で少しおかしい瞬間が旅の背中を押す。

【入賞】

春の月裏磐梯の影深し
 ◉さいたま市 竹内白熊
<評>春の月のやわらかな光に照らされながらも、裏磐梯の山影はなお深く沈んでいる。土地の持つ静かな陰影に奥行きある景色が広がる。

糸櫻(いとざくら)風なき風のありかかな
 ◉練馬区 曽根新五郎
<評>枝垂(しだれ)桜の枝がかすかに揺れ、目には見えない風の気配が伝わる。「風なき風」という言葉が繊細。旅の途中のやわらかな春の一瞬。

最上川くらがり見詰め懐手
 ◉長岡市 安木沢修風
<評>冬の最上川を前に、懐手でじっと見つめる人の姿。寒さと川の深い闇が重なり、自然の大きさに向き合う静かな時間が漂う。

初旅に方向音痴の大東京
 ◉浜松市 青田奈央
<評>新年初めての旅に訪れた東京。その広さに戸惑い、方向を失う。「大東京」の言い方に驚きと高揚感がにじむ軽やかな一句。

【入選】

子のころの遊び場消えて春の山
 ◉相模原市 妹尾茂喜
茶の花や誰が歩いた十石(じっこく)峠
 ◉横浜市 石川夏山
早春の笛吹川の土手に立つ
 ◉川崎市 柳内恵子
思い出を残して燃える冬の山
 ◉蓮田市 三田祐子
鎌倉や寺は梅梅梅の風
 ◉大田区 豊島 仁
フェリー行く菜の花沖の航路跡
 ◉埼玉県吉見町 青木雄二
房総の海紺碧(こんぺき)に初燕
 ◉横浜市 相沢恵美子
独り行く春めく日々の信州路
 ◉行田市 根岸 保
淡雪や美(は)しき薬師寺影ふたつ
 ◉茨城県利根町 中澤則明
福井路の雪かきわけて福寿草
 ◉岐阜県八百津町 細江隆一

【佳作】

貫頭衣(かんとうい)被りうらうら土器パズル
 ◉大分市 市山幸江
青葉城ここぞ日の本天下人
 ◉塩尻市 田中謙三
どんど焼年神様を見送りに
 ◉松山市 友澤恭子
瀬戸の春大船小船水脈を引く
 ◉四日市市 堀田久美子
忘れ霜逢坂山の姉弟
 ◉東京都中央区 豊澤佳弘
江ノ島のシーキャンドルや風光る
 ◉江戸川区 岩井千恵子
母の日に母に吾の名繰り返し 
 ◉神奈川県中井町 竹和世
大船の駅蕎麦が好き下車しても
 ◉神奈川県中井町 笹尾雅美
花見客パンダに愁ひ花に酔ふ
 ◉つくば市        有阪貴男
初富士となれば威容もそれらしく
 ◉成田市 小川笙力


俳壇選者_対馬康子先生.jpg
<選者>「麦」会長 対馬康子(つしまやすこ)
香川県出身。「天為」最高顧問。現代俳句協会副会長。産経新聞俳壇選者。2015年文部科学大臣表彰。句集に『愛国』『純情』『竟鳴』『百人』など

対馬康子先生の総評

旅や土地の風景を題材に、具体物を通してそれぞれの感慨をさりげなく表した句が多くありました。無人駅の扉、赤べこや枝垂れ桜の揺れ、最上川の暗がり、そして大東京への戸惑いなど、景色の捉え方にも幅があり、写生の確かさと作者の個性が感じられ、それが読者に旅の空気や季節の気配を伝える魅力となっています。

対馬康子先生のワンポイント俳句講座
「雨を詠む」

雨は旅につきもの。芭蕉の句<五月雨に鳰(にお)の浮巣を見にゆかん>と、あえて雨を楽しむのも俳人の心です。「おくのほそ道」の<五月雨を集めて早し最上川>は、奔流の臨場感を鮮やかに捉え、その旅を終え帰郷の折、伊賀越えの山中に詠まれた<初しぐれ猿も小蓑をほしげなり>では、冷たい雨に濡れる猿に哀れとおかしみが滲みます。  

雨音、濡れた光、雨の一粒、雨ゆく人の気配、梅雨の空の色など、日常の中で雨の俳句はさまざまな表情を創り出します。四季折々の情緒を生む名わき役を楽しんでください。私も初めての子を身籠ったとき<十月の雨の匂いがして受胎>と詠みました。


【応募方法】
旅で詠んだ俳句、風景や名所を詠んだ俳句をお送りください。特選句には選者の直筆色紙と図書カード、入賞句には図書カードを進呈します。応募には「月刊旅行読売」に添付の「投句券」が必要です。「月刊旅行読売」は全国の書店またはこちらの当社直販サイトで送料無料でお求めいただけます。

(出典:旅行読売2026年6月号)
(Web掲載:2026年4月28日)

※連載「旅よみ俳壇」トップページはこちら


Writer

たびよみ編集部 さん

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