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【1万円台の名湯】コラム 1泊5000円以下!旅人の味方「湯治宿」(温泉ライター/高橋一喜)

【1万円台の名湯】コラム 1泊5000円以下!旅人の味方「湯治宿」(温泉ライター/高橋一喜)

温泉ゲストハウス TojiyA(とうじや)のヒノキの香り漂う浴室

386日かけて3016湯もの温泉に入った温泉ライターの高橋一喜さんに、物価高の今こそ行きたい、リーズナブルでも湯は一級品というお気に入りの湯治宿を教えてもらいました。

会社を辞めて温泉巡りの旅へ

温泉の沼にどっぷりハマり、会社を辞めて日本一周の旅に出発したのは2008年のこと。中古のワゴン車(ナンバーは1126<いいふろ>)を相棒に、386日かけて日本全国3016湯をめぐった。

旅の総費用は450万円。いま振り返ると、東京で普通に1年間暮らすだけでもこのくらいの金額は飛んでいくだろうし、その後の人生の土台となる経験を積めたと考えれば、ずいぶんと効果的な投資だったと思う。入浴と宿泊にかかる料金は現在の2分の1くらいだったので、いま同じような旅をしようと思えば倍くらいはかかるだろう。あのとき決断した自分を褒(ほ)めてあげたい。

とはいえ、450万円は当時の筆者には大金だった。全預金の9割だ。3000湯を目標としていたから、ゆっくり、のんびりとはいかない。旅が長引くほど予算も膨らんでいくので、1日平均8湯をノルマに、朝から晩まで温泉に入り倒さなければならなかった。

リーズナブルでも温泉は一級品

出費の中で大きなウエイトを占める宿泊費も悩みの種だった。半分は車中泊ですませたが、もう半分はできるだけ安く泊まれる宿を探した。

そんな旅の途中で重宝したのが、いわゆる湯治宿だ。最低限の設備やサービスで、部屋も簡素。食事も自炊が基本だ。その代わり宿泊費は安くすむ。おまけに療養を目的としているから湯は極上で、かけ流しが当たり前である。当時、東北や九州には2000円~3000円台で素泊まりできる宿が存在した。

時代を経ても、湯治宿は旅の心強い味方だ。さすがに昨今の物価高のあおりを受けているが、湯治文化が残る昔ながらの温泉地には、リーズナブルな価格の宿が残っている。設備やサービス、食事などは期待できなくても、源泉は一級品。気楽なひとり旅や、温泉の質を重視する人であれば、コスパは高すぎるくらいだ。

今回紹介する3軒は、いずれも自炊用の炊事場を備えた湯治宿。1万円でお釣りが出るどころか、5000円札1枚で泊まれる。

都会にはない魅力を求めて

鳴子(なるこ)温泉郷の一角を占める川渡(かわたび)温泉「高東(たかとう)旅館」は、日本一周の旅のあともよく利用している素泊まりが基本の湯治宿。かけ流しにされたエメラルドグリーンの美しい湯は硫黄泉らしい香りを放ち、よく温まる。入浴後に決まって眠くなるのは、いい湯である証しだろう。

1泊5000円を切るから、1週間くらい滞在しても数万円。個人の価値観にもよるが、数万円の高級旅館に1泊するよりもぜいたくな時間に思える。

川渡温泉 東五郎の湯 高東旅館

宮城県大崎市鳴子温泉築沢23-1
TEL:0229-84-7220
1泊素泊まり4590円~

2 高東旅館_浴室.jpg

花巻温泉郷の一つ、大沢温泉「湯治屋」は、昔ながらの自炊部としての歴史をもつ木造旅館。作家・宮沢賢治も訪れた宿の名物は、渓流沿いにある混浴露天風呂。川にかかる曲(まが)り橋、対岸の茅葺(かやぶ)き屋根の建物など昔話の世界に迷い込んでしまったようなロケーションがすばらしい。

館内には共同炊事場もあるが、定食から酒のおつまみ、十割そばまでそろう食事処が営業しているので、湯治初心者でも食事には困らない。

大沢温泉 湯治屋

岩手県花巻市湯口大沢181
TEL:0198-25-2315
1泊素泊まり3630円~

3 大沢温泉外観.jpg

ひなびた風情が魅力の湯の鶴温泉「温泉ゲストハウス TojiyA」は、明治時代創業の旅館をリノベーションした湯治宿。旧建物の柱や梁(はり)などを活(い)かしつつ、若いオーナー夫婦のセンスによって現代風に生まれ変わった空間は居心地がよい。階段を下りた半地下にある浴室には肌にやさしいアルカリ性単純温泉がザバザバとかけ流しにされる。

夜は、宿の向かいに若旦那が腕を振るう屋台が登場し、他のお客さんと交流しながら食事を楽しめる(別料金)。ニューヨークで活動しているというアーティストが「この湯に浸(つ)かるためにはるばるやってきた。大都会にはない魅力がここにはある」と言っていたのが印象深い。料金の多寡だけでは計れない価値が、温泉にはあるのだ。

湯の鶴温泉 温泉ゲストハウス TojiyA

熊本県水俣市湯出1561-1
TEL:0966-68-0008
1泊朝食付き5000円~

4 湯の鶴温泉内観.jpg

文・写真/高橋一喜


高橋顔写真_左右450.jpg

たかはし・かずき
温泉ライター。温泉好きが高じて会社を辞め、日本一周3016湯をめぐる旅を敢行。著書に『日本一周3016湯』『絶景温泉100』(幻冬舎)『ソロ温泉』(インプレス)などがある。「マツコの知らない世界」「ホンマでっか!?TV」などメディア出演多数。Yahoo!ニュースなど各種メディアで温泉の魅力を発信中。

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※記載内容はすべて掲載時のデータです。

(出典:旅行読売2026年5月号)
(Web掲載:2026年5月15日)


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