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【にっぽんクラフト蒸溜所紀行 vol.4】八郷蒸溜所 YASATO DISTILLERY<茨城・石岡市>

場所
> 石岡市
【にっぽんクラフト蒸溜所紀行 vol.4】八郷蒸溜所 YASATO DISTILLERY<茨城・石岡市>

進取の気性に富む酒蔵が世界へ発信する国産ウイスキー

文政6年(1823)、常陸国那珂郡鴻巣(こうのす)村の庄屋・木内儀兵衛が酒造りを始めてから173年を経た平成6年(1994)、酒税法改正により小規模でのビール製造が可能になったことで、各地に200か所以上のブルワリーが誕生し「地ビールブーム」が起こった。その先鞭となったのが、同酒造が蔵の片隅で製造を始め、96年に発売した「常陸野ネストビール」。翌年には日本で初めて開催された世界のビールコンテストで金賞を受賞し、以降も数々のコンペティションで高い評価を得ていち早く海外輸出もスタート。〝日本のクラフトビール〟の知名度を一気に引きあげたブルワリーとて知られている。

ビール作りの原料となる大麦は明治時代に欧米から移入されて以降、高温多湿な日本での栽培に耐えるよう品種改良が行われてきた。栃木・茨城は100年以上にわたりその大生産地であり続けてきた地であり、大手ビール会社の麦会社が一帯にあるのはそうした歴史による。とはいえ、ビール生産量に対する国産大麦の自給率は1割ほどで、新たに参入したブルワリーも多くが輸入麦芽を採用した。

しかし、事業開始時から「ここでしか作れない味」を目指していた同酒造は平成19年(2007)、昭和30年代には栽培が終了していたビール用の品種・金子ゴールデンを地元農家と共に復活させ、ビールづくりへの使用を開始。国産麦芽に加え、酒米の最高峰・山田錦、国産ホップを使用したクラフトビール〝ニッポニア〟は海外でも人気を博し、多くのコンペティションで最優秀賞を受賞た。

「酒造りは農業の伝統や文化とともにあるもの。茨城県産の大麦や米で作ることにこだわっているのは、ビールはもちろんウイスキーも同じです」とは、同酒造が平成30年(2020)に設立した八郷蒸所の洋酒製造部・今泉喬郎さん。名峰・筑波山を眼前に望む田園地帯の高台に立つ、かつての公民館を改修した蒸所では、設立当初から県産米や小麦を使ったグレーンウイスキーの製造も行ってきたという。

「ウイスキーづくりは、ビール醸造の規格に合わない大麦を活用するために始めたものでもありました。2016年に額田ビール工場の一角でウイスキーづくりを始めた当初は輸入モルトを使っていましたが、3年前に地元産大麦を麦する工場を設立。年間200トンのモルト(麦芽)を作り、仕込みに使っています」

製造工程にも、ビール作りで培った見識が採用されているという。

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大麦からモルト(麦芽)を作る製麦も自社で行なっている。使用しているのは地元で収穫された品種・ミカモゴールデンなど

「糖化槽や発酵槽の加温温度や蒸留時のカットポイント(最も風味が良い抽出液を取り出すタイミング)一つで酒質が変わります。うちではビール作りの時と同様、糖化とろ過を別の槽に分け、それぞれ温度管理をしています。これにより酵母の餌となるアミノ酸が増えて酵母も増える。結果、香り豊かな麦汁を作ることができるんです」

3時間かけて糖化し、3〜4時間かけて濾過した麦汁に酵母を加え、ステンレス製の発酵槽でまず3日間、発酵させる。この後、オーク材・アカシア材の木製発酵槽に移しさらに2日間発酵させ、乳酸菌を豊富に含むもろみを作るという。これをポットスチルへ移し、10時間ほど初留にかけ7〜8%のアルコールを回収。再留ではゆっくりと蒸気を入れ、60〜70%の原酒をとる。蒸留棟に隣接する2棟の貯蔵庫にはバーボン樽やシェリー樽、ラム樽、国産ワイン樽などに加え、さらなる日本らしさを求めて採用したオリジナルのさくら樽も並んでいた。温度・湿度をせず、土地の気候にゆだねられて熟成を続ける樽は現在、5000樽に及ぶ。

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スコットランド・フォーサイス社製のポットスチルが並ぶ蒸留棟

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筑波山を望む石岡市八郷地区に佇む蒸溜所。破砕・蒸留棟に隣接して2つの貯蔵棟がある

日本生まれの大麦を自社製麦し、原料に常陸野の誇りを〝日の丸〟という名に込めて

国産原料にだわって作られ、その矜持を託し〝日の丸〟と名付けられたウイスキーの初リリースは2022年。以降、毎年限定銘柄を発表しているが、定番銘柄は3つ。隣接するビジターセンターで試飲させていただいた。シングルモルト「シグネチャー 1823」は、昨年、数々のコンペティションで金賞・銀賞を獲得した代表銘柄。酒米を原料とするグレーンウイスキーを使用したブレンデッドウイスキー「コメ」は、柔らかな甘みとしっかりとしたボディを感じる。そしてサクラやチェリーブランデーの樽で熟成したモルト原酒をブレンドした「さくら・ら」は、甘く華やかな香りが印象的。3種3様の味わいの幅を、しっかりとしたボディが支えている。

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筑波山を一望する高台に佇む八郷蒸溜所。地元原料にこだわった酒造りに取り組む

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ビジターセンターでは試飲も。写真は3種のウイスキーが味わえるテイスティングセット

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「常陸野」は国産麦芽を50%以上使用。シングルモルト、シングルグレーンが並ぶ

もともとビール作りに携わりたいと同社に入社し、額田工場で5年間ビール醸造に従事していたという今泉さん。この春からウイスキーの醸造責任者になったばかりでまだまだ模索中だと話すが「味わいが完成するまでに時間がかかるので難しいですが、それが面白い。ウイスキーを通して地域の魅力を海外へ広く発信していきたい」と、目を輝かせる。

東日本有数の豊かな穀倉地帯であり、筑波山の伏流水にも恵まれた茨城・石岡。広々とした田園風景の一角で、進取の気性に富む蔵と若き技術者の挑戦は、続く。

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ショップでは麦芽粕を飼料として育った豚を使用したハムなども

文/奥紀栄


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八郷蒸溜所 YASATO DISTILLERY

住所:茨城県石岡市須釜1300
TEL: 0299-56-7555
営業:10:0017:00・火曜休
交通:JR常磐線石岡駅駅からタクシーで約30分/常磐自動車道土浦北ICから約20

■見学について

火曜日以外のすべての曜日で123回(10:45/12:30<土日のみ>/14:25)、製造工程の見学・試飲ができるツアーを実施(所要1時間、2000円)。また日曜日(13:00〜15:00)には、見学ツアーと併せ数種類の原酒をブレンドしオリジナルウイスキーを作るブレンド体験も実施している。完成したウイスキーはミニボトルに詰めて持ち帰れる(所要2時間/10,000円)。いずれも事前予約制。

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※記載内容はすべて掲載時のデータです。

(出典:「旅行読売」2026年9月号)
(Web掲載:2026年8月4日


Writer

奥 紀栄 さん

神奈川生まれ。新卒で旅行読売出版社に入社し編集道を叩き込まれたのち、ライフスタイル誌や機内誌、料理専門誌編集部などで研鑽を積む。国内外の気候風土が育んだ歴史・文化を軸としたテーマ性の高い紀行記事や人物インタビューが得意。建築・工芸・食文化など、暮らしに根ざした企画はもちろん植物&鉱物も守備範囲。好物は米と温泉。

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