【温泉は人生の句読点だ!】記憶にブチ刺さった最強駅チカ温泉 姉戸川温泉 <青森>
一度見たら忘れられない、これが姉戸川温泉の湯船だ。ひなびた湯船にパイプからたたきつけるかのように源泉が豪快に注がれている。これぞ眼福な光景ではないか。ブラボー!マンマミーア!長友選手じゃなくてもそう叫びたくなるぜ!

プロフィール
岩本薫(いわもとかおる)
1963年東京生まれ。温泉研究家、作家、エッセイスト。温泉研究家といってもひなびた温泉にしか興味がない偏愛志向。主な著書に『もう、ひなびた温泉しか愛せない』『つげ義春が夢見た、ひなびた温泉の甘美な世界』『ヘンな名湯』『もっとヘンな名湯』(以上、みらいパブリッシング)『ひなびた温泉パラダイス』(山と溪谷社)等。メディアにも多数出演。ひなびた温泉マニアのグループ「ひなびた温泉研究所」のショチョーでもある。
ひと仕事終えたら、まずはのんびりと温泉につかりたい
ワタクシ、取材や仕事の打ち合わせとかでどこかへ行った場合、ひと仕事終えたら、ほぼ、必ずすることがある。それは駅から近い温泉を探すこと。まずはのんびりと温泉につかりたい。でも、電車を乗り継いだり、けっこうな距離を歩いたり、なんていうのはメンドーなので、駅チカにどこかないかと。なかったなら、あきらめて帰る。
で、こーいうときはあんまり湯にこだわらない。ワタクシが愛してやまないひなびた温泉でなくてもいい。スーパー銭湯の温泉でもいいし、ビジネスホテルとかの温泉でもいい。なんなら温泉じゃなくって、たんなる銭湯でもいい。
でも、たいていの場合、温泉地ならまだしも、そんな都合の良いものはなくて、けっきょくのところ、ため息をつきながら帰ることになる。
で、そんなときに必ずと言っていいほど思い出す温泉がある。駅から徒歩1分。ひなびた温泉。しかも極上湯。しかも、しかも、源泉ドバドバ。しかも、しかも、しかも、混んでない。“独泉”できる確率、細川たかし!
あ〜! あんな温泉がここらへんにもあったらいいのになぁ……と。
そんな夢みたいな駅チカ温泉なんかあるの?
ある。
どこにある?
青森県。
遠いじゃん!そんな声が聞こえた気がしたけど……、まぁ、まぁ、まぁ、まぁ。
遠いけど近い。それが遠い駅チカ温泉!誇らしげに言うなだって?
まぁ、まぁ、まぁ、まぁ。
でもですよ、遠くたって、温泉マニアがはるばるやってくるんだなぁ、ソコへ。
謎パイプから源泉がドバドバと!
青森県青い森鉄道の小川原(おがわら)駅はトイレも自動販売機もない小さな無人駅。
そんな駅から徒歩1分。歩くのが速い人なら30秒ぐらいで着いてしまう距離に姉戸川(あねとがわ)温泉はある。
外観は古い共同浴場って感じで、館内もいまだ昭和が息づくおおらかな雰囲気なんだけど、浴室の扉を開けると圧巻の光景が目に飛び込んでくる。
浴室のど真ん中に大きな浴槽がド〜ンとあって、そこにドバドバドバドバ〜ッと源泉が投入される音が鳴り響いている。それもそのはずで、湯船のフチに見たことないようなパイプがニョキっと立っていて、高いところから豪快に源泉が注ぎ込まれているのだから。
打たせ湯?いや、ちょっとした温泉の滝だ。
湯船からは溢(あふ)れたお湯が床一面へ流れ出て、洗い場全体がまるで温かい浅瀬のようになっている。
こんな温泉、見たことない。なんてブラボーでベラボーなんだろう。

どーですか、このハゲしい源泉かけ流しは。重低音のドバドバ音が浴室に鳴り響く
でも、サプライズはそれだけでは終わらない。そっと湯船に体を滑り込ませると、なんというトロトロの浴感。そして鼻先をくすぐる温泉らしい卵臭。湯の温度は体温よりも少し高い38度ぐらいのぬる湯。秒速で気持ちいい。たまらなく気持ちいい。ずっとつかっていられるし。
これ、全国レベルの極上湯じゃん!
そんな湯が惜しげもなくパイプからドバドバと投入されている光景は、この湯のよさを感じてから改めて見ると、贅沢(ぜいたく)すぎる。フツーありえない。しかもだよ、今、オレ、そんな湯を独り占めしてるじゃん。いいんすか? なんという背徳感。あんこ、バターたっぷりの、深夜のあんバターサンド。山盛りのイクラ丼に、滝のような追いイクラをしているみたいな。背徳グルメ駅チカ温泉独泉男の時間!
湯船は手前が浅め、真ん中が普通。奥がやや浅めと3段階の深さになっているので、自分のちょうどいい深さが選べる。あるいは首までどっぷりつかって、途中から半身浴といったような、ラーメンの“味変“みたいな変化も楽しめる。
コレは一度入ったら出たくない温泉だ。人をダメにするクッションとかソファがあるけれども、人をダメにする温泉だよなぁ。背徳グルメ駅チカ味変OK人ダメ温泉独泉男の時間!なんのこっちゃ?
ドバドバドバドバ〜ッという心地良い重低音のBGMを聞きながら、極上ぬる湯につかること小一時間。全身の力が抜けきってフニャフニャになった。
服を着て外に出ると、心地よい風が肌をなでていく。
時刻表を確認すると、次の電車が来るまであと数分。駅までダッシュ……する必要すらなく、あっという間にホームへ到着だ。この「湯冷めする暇すらない究極のアプローチ」こそが、姉戸川温泉の真骨頂である。
最後に、姉戸川温泉以外のワタクシお気に入りの駅チカ温泉を記しておこう。
熱海駅:熱海温泉「熱海駅前温泉浴場」
伊東駅:伊東温泉「湯川第一浴場子持ち湯」
別府駅:別府温泉「駅前高等温泉」
箱根湯本駅:箱根湯本温泉「かっぱ天国」
いずれも駅から徒歩1〜2分の源泉かけ流し温泉。ぜひお立ち寄りあれ!
文・写真/岩本 薫

駅のホームから見えちゃうほどの駅チカ温泉
♨今月のひなびた温泉
姉戸川温泉 (青森)
◎料金:日帰り入浴300円(9時〜20時30分/無休)
◎泉質:アルカリ性単純温泉
◎アクセス:青い森鉄道小川原駅から徒歩すぐ/第二みちのく有料道路三沢十和田下田ICから12キロ
◎住所:青森県東北町大浦中久根下98‒3
◎TEL:0176-56-3529
※記載内容はすべて掲載時のデータです。
(出典:「旅行読売」2026年10月号)
(Web掲載:2026年11月8日)


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