【温泉は人生の句読点だ!】ここ掘れニョロニョロ!で湧いちゃった穴場温泉 根古屋乃湯<根古屋城温泉・群馬>
カメラの画角の都合で月まで撮れなかったが、薄暮の青いグラデーションの空に、くっきりと満月が浮かび、そして遥か彼方に赤城山のシルエットという感動的な景色

プロフィール
岩本薫(いわもとかおる)
1963年東京生まれ。温泉研究家、作家、エッセイスト。温泉研究家といってもひなびた温泉にしか興味がない偏愛志向。主な著書に『もう、ひなびた温泉しか愛せない』『つげ義春が夢見た、ひなびた温泉の甘美な世界』『ヘンな名湯』『もっとヘンな名湯』(以上、みらいパブリッシング)『ひなびた温泉パラダイス』(山と溪谷社)等。メディアにも多数出演。ひなびた温泉マニアのグループ「ひなびた温泉研究所」のショチョーでもある。
古い温泉地に行くと、よく出くわす「開湯伝説」
古い温泉地に行くと、よく「開湯伝説」ってやつに出くわす。
傷を癒やす鹿や猿が教えてくれたとか、天狗(てんぐ)が教えてくれた霊泉とか、弘法(こうぼう)大師が地面を杖(つえ)で叩(たた)いたら湧いたとか、その手の話。
もちろん、そういう歴史ロマンは嫌いじゃないけど、心のどこかで「まぁ、そういうことにしておいたほうが箔(はく)がつくよね」なんて、ひねくれた大人の目で見ちゃう自分もいるわけですよ。
ところがだ。この現代に、ガチで〝ある生き物〞が「ここに温泉ありますよ〜」って教えてくれた温泉がある。群馬県の根古屋城(ねごやじょう)温泉「根古屋乃湯」である。
時を遡ること約30年前。今の根古屋城温泉の主人が、まさか自分が温泉施設の経営者になるなんて夢にも思っていなかったであろうころに、な〜んか周りにヘビが集まってくるなあとずっと気になっていたフシギな井戸があって、あるときその井戸を見てハタと思った。「ヘビって温かい場所を好む生き物だから、この下に温泉が湧いてるんじゃね?」
絶対そうに違いない、と確信した主人は、ここに露天風呂をつくったら赤城山を眺めながら湯につかれる最高の露天風呂になるよなぁ、と妄想をモクモクとふくらませた。そう、そこは榛名(はるな)山麓の吾妻(あがつま)川を見下ろす高台で、名峰、赤城山を眺めるのに最高のロケーションでもあったのだ。
う〜ん、いいじゃないの。もう、思い立ったら止まらない。ためらうことなく「よっしゃ、掘るべえ!」とボーリング業者を召喚。己の勘とヘビの習性に全財産を賭ける大勝負に出たというわけ。
すると、なんと、たったの200メートルちょっと掘ったところで……ドバァ〜っと温泉が湧き出てきたのだという。ヘビの教えは間違っていなかった。
そんなふうに根古屋城温泉は、まさに「ここ掘れワンワン」ならぬ「ここ掘れニョロニョロ」な〝現代の伝説〞というべき温泉なのである。
まさかの開業資金2万円?
まさにヘビの導きによって爆誕した根古屋城温泉だったわけだけど、話はそれだけでは終わらない。
よっしゃ、掘るべえ!そう決心したときの主人の持ち金はなんと2万円。それでよくボーリング業者に依頼できたと驚かずにはいられないけれども、なにはともあれ温泉は出た。最高の露天風呂をつくろう。でも、金はなし。さあ、どーする?
もー、頼れるものはなんでも頼ろうと、親戚、知人、その他もろもろに頼りまくった。
主人はよっぽどの強運の持ち主なのだろう。たまたま兄が元石屋さんだったり、義兄が大工さんだったりして、そうした〝身内コネクション〞を頼り、また廃校になった学校から譲り受けた廃材や畳を再利用して、手作り感満載な温泉施設をつくりあげた。
だから、たとえば施設内の休憩所兼食堂の畳は柔道で使い込まれた畳だったりする。天井を見上げれば立派な梁(はり)がドッシリと建物を支えているのだが、よーく見るとただの木材じゃない。なんと、使われなくなった昔懐かしい木製の電柱だったりする。
昭和の街頭を照らし、風雨に耐え抜いてきた電柱たちが、まさか平成・令和の時代に温泉施設の骨組みとして第2の人生(柱生?)を歩むことになるとは、現役時代には夢にも思わなかっただろう。

柔道場の畳が敷き詰められた休憩所兼食堂。見上げると、天井の梁に昔の電柱が
それだけではない。エントランスを照らす照明のノスタルジックな傘は、実は古い農具の再利用だったりして、使えるものはなんでも使っちゃおうぜ、というノリの「廃材アベンジャーズ、ここ、根古屋城温泉に集結!」とでも言いたくなるような温泉施設ができあがったのである。
さて、そんな根古屋城温泉は、とくに今この暑い夏において最高の癒やしの湯となる。
なんてったって景色が抜群。榛名山麓の高台という下界を見下ろすような場所にあり、おまけに豆粒ほどに見える人家もまばら。覗(のぞ)かれる心配がないので塀も囲いもなにもない、まさに景色100%見放題の絶景露天風呂。
湯は無色透明のナトリウム―塩化物泉。ツルスベ感のある浴感が気持ちよく、そして内湯は適温だが、露天風呂は人肌と同じくらいのぬる湯。暑い夏でものんびり長湯ができる温泉なのだ。
それなのに根古屋城温泉は土・日曜、祝日しかやってないこともあって、知る人ぞ知る温泉だったりする。ややもするとこういう絶景温泉は〝芋洗い状態の温泉〞になりがちだが、そんな心配は無用だ。これを穴場と言わずして、いったい、なにを穴場と言うのであろうか。
雄大な景色を眺め、体の芯までじんわりと解きほぐされながら、この露天風呂をつくるに至った現代の「開湯伝説」に感謝のコトバを贈ろうではないか。
ヘビ。マジでグッジョブ……!
文・写真/岩本 薫

根古屋城温泉のもう一つの名物がご主人の自信作、無化調の支那そば。これが実にうまい
♨今月のひなびた温泉
根古屋乃湯 (根古屋城温泉・群馬)
◎料金:日帰り入浴400円(土・日曜、祝日の11時〜20時/月〜金曜休)
◎泉質:ナトリウム‒塩化物泉
◎アクセス:吾妻線祖母島駅から徒歩40分/関越道渋川伊香保ICから13kiro
◎住所:東吾妻町岡崎根古屋309 ‒1
◎TEL:0279-59-3361
※記載内容はすべて掲載時のデータです。
(出典:「旅行読売」2026年9月号)
(Web掲載:2026年9月14日)


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