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源泉2種をかけ流す湯宿で紅葉と硫黄の香りに包まれて(1)

場所
> 福島市
見頃
10月
源泉2種をかけ流す湯宿で紅葉と硫黄の香りに包まれて(1)

秘湯中の秘湯を求めて

ブナの原生林がどこまでも広がり、見渡す限り山また山。安達太良(あだたら)山麓の茂みにくねくね延びる県道30号沿いに、一軒宿が点在している土湯峠温泉郷。民家などは一切ない。野地、新野地、鷲倉、赤湯、幕川温泉の5湯6軒がひっそりとたたずんでいる。

〝幕川温泉〟の案内板を右に折れ、車がやっとすれ違えるほどの細い道を歩く。ブナやコナラ、ダケカンバなどが茂る林間を緩やかに谷底へと下り、清流を渡ると今度は緩やかな上り道。分岐を折れてから約4㌔、谷を越えた先に水戸屋旅館はあった。温泉郷の中でも秘湯中の秘湯だ。

「野地温泉に寄ってから来ると伺っていたので、迎えに行ったんですよ。汗をかかせちゃってすみません」と女将・安島(あじま)賀奈江さんの第一声。野地温泉の後に赤湯温泉にも立ち寄ったので、行き違いになったようだ。迎えを頼んではいなかったが、女将さんの気遣いがうれしい。林間に響く野鳥の声や風にそよぐ葉音を聞きながら、約4㌔の道中を心地良く歩いてきたことを伝えた。


女将の安島賀奈江さん
女将の安島賀奈江さん

硫黄の香り漂う白濁湯に遊ぶ

客室に荷物を置いてすぐ、汗を流しに渓流露天風呂へ向かった。宿の裏手から20㍍ほど歩いた清流のほとりに湯船がぽつりとあった。混浴と聞いてそっと中をのぞくと、先客はいない。かけ湯をしてから、そろりそろりと足先から白濁湯へ身を沈めた。

ふぅ~。少しピリピリ感のある熱さに体も次第に慣れ、ひとり笑みが浮かぶ。肩から下は白濁に隠れ、水面から10㌢近くまで手を浮かせないと見えない。〝温泉らしさ〟という意味で、乳白色の湯は好きだ。体を動かすたびに立ち上る硫黄の香りがまた好きで、湯の花が舞う様子に、「いいぞ、もっと硫黄の香りを!」と願う。


真っ白な湯が特徴
真っ白な湯が特徴

湯と紅葉との色彩の共演

女将さんが、「渓流露天風呂は湯船の下から源泉が自噴しているんです」と言っていた。底の見えない白濁湯の中を手探り足探りしてみると、熱さの違いから「この辺りかな?」と思われる箇所があった。

湯に遊びながら視線を上げると、渓流を覆うように茂る木々。例年1010日前後を見頃に色付く。ブナやコナラの黄葉に、カエデやウルシの紅葉、それに常葉樹の緑色が混じり、夕暮れの優しい斜光が木々を照らすひと時もいいし、ライトアップされて闇に浮かぶ様子も素敵だという。

続けて大浴場へ向かうため、タオルで体はふかずに自然乾燥。肌に付いた温泉成分と、硫黄の香りを後々まで楽しみたいから。ほてった体に川風が心地良い。

文/松田秀雄


広々とした大浴場
広々とした大浴場

<施設データ>
水戸屋旅館
☎0242643316

https://mitoya-makukawa.com/


※メイン写真提供/株式会社リバティー



(出典 「旅行読売」2019年10月号)

(ウェブ掲載 2019年10月1日)

Writer

松田秀雄 さん

全国を取材で巡ること約30年。得意なテーマは「温泉」で、北海道・稚内温泉から沖縄・西表島温泉まで500湯・2000軒以上は訪れている。特に泉質は硫黄泉が好きで、湯上りに体を拭かず自然乾燥させるのがモットー。帰宅後、体に付着した硫黄成分が湯船に染み出して白濁する様子を見るのが好き。最近は飲泉への興味が強く、「焼酎割に適した温泉は?」を掲げて最高の一杯を探し中。旅行読売出版社・編集部に所属。

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