「すずさん」の「おうち」模型作者で「憲兵」役・栩野幸知さんの「さらにいくつもの」裏話(1)
「すずさん」の「おうち」模型
昭和のくらし博物館 (東京都大田区南久が原)で、「映画「『この世界の片隅に』~さらにいくつものすずさんのおうち展」が開かれており、映画の主人公「すずさん」の「おうち」の模型が、来館者の人気を集めている。同展は、片渕須直監督のアニメーション映画「この世界の片隅に」に新しいエピソードを加えた「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」の公開(12月20日から)を記念して、2020年3月29日まで開かれている。
広島県呉市生まれ、作中では「7人以上」の声を担当
模型の作者は俳優の栩(とち)野幸知さん。広島県呉市生まれで、広島弁がわかることから、映画「この世界の片隅に」制作に声優として、また広島弁の指導で関わることになった。スタッフが作画している時、すずさんが嫁入りした「北條家」の平面図を見かけ、まず奥座敷をペーパークラフトで作り、結局、全体の模型を作った。そして、映画制作のために関係者が参照する資料となった。
栩野さんは作中で「7人以上」の声を担当した。
まず担当することになったのが「憲兵さん」の声。栩野さんの顔に似せて、憲兵さんのキャラクターが作画された。作中では山の斜面に「すずさん」が座り、呉湾の軍艦をスケッチしているところに憲兵さんがやってくる。憲兵さんは、スケッチ帳を取り上げ、「間諜(スパイ)行為」だとして尋問を始める。
昭和のくらし博物館での展示品には、栩野さんが想像を膨らませて出来上がった作品もある。
たとえば「すずさん」の「スケッチ帳」の軍艦が描かれているページ。軍艦の線画から鉛筆の線が下の方へと伸びている。これはスケッチ帳が、憲兵さんに取り上げられた時、描いている最中の鉛筆の先端がこすれて線ができたはず、という想像のもとに描かれている。
栩野さんは、作中の最初に出てくる船頭さんの声も担当した。「子どもの頃のすずさんを舟に乗せてあげた。あの船頭さんの声もボクなんです」
3人目は呉市内の闇米屋のおばあちゃん。関係者から聞いた後日談だが、最初、普通のおばあちゃんが作画された。すると片渕監督は、「もうちょっと特徴のある顔がいいなあ。たとえば、栩野さんを女性にしたみたいな」と言い、書き直しになったという。「もしかしたら、あのおばあちゃんもボクの似顔絵をもとにしているかも」
そして、ラジオから聞こえてきた、昭和天皇が戦争終結を告げる玉音放送。
さらに、北條家で行われた「すずさん」の結婚式で、お経をよんだお坊さんの声。
このほかに「空襲警報」とか「退避」とか、スピーカーから聞こえてくる声。それぞれが別人だと考えると「3人ぐらい」とも計算できる。
新作映画「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」では、新たに加わったお花見シーンで、周りでガヤガヤ言っている中のひとり。
以上を積算すると、「7人以上」、場合によっては9人の声を担当しているというのだ。