「すずさん」の「おうち」模型作者で「憲兵」役・栩野幸知さんの「さらにいくつもの」裏話(2)
自ら制作した「りんどうの描かれた茶碗」模型を高く掲げる栩(とち)野さん
新作に登場する「リンさんの口紅」や「りんどうの描かれた茶碗」の模型も制作
新たに描き加えられた250を超えるカットが、いくつもの場面として物語の随所にちりばめられた片渕須直監督の新作映画「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」(12月20日公開)では、一つの「秘密」が浮かび上がる。
その「秘密」に関係するのが「すずさん」と同世代で、遊郭で働く女性リンさん、そして「りんどうの描かれた茶碗」だ。
昭和のくらし博物館では、今年5月まで前回展示「すずさんのおうち展」が行われた。新作映画公開を記念した今回の映画「『この世界の片隅に』~さらにいくつものすずさんのおうち展」では、「リンさんの口紅」や「りんどうの描かれた茶碗」の模型(実物大、栩野さん制作)が追加された。
新作では、「すずさん」が、「秘密」に密接に関わるその茶碗を高く掲げて見上げる場面がある。
広島弁、呉弁を「やわらかい感じ」に、と提案
片渕監督から、広島弁の監修を依頼されたことで、栩野さんは一つの提案をした。過去の広島県を舞台にしたヤクザ映画で荒っぽいイメージが先行している広島弁、呉弁を「やわらかい感じ」にしたら、と提起したというのだ。「ふだん女性がしゃべっている言葉、オジサンがしゃべっているユルい感じがいいですね」と言ったところ、片渕監督も「そうなんですよ」と応じてくれた。
最近ではあまり使われなくなった「広島弁の敬語」を使ったセリフが入るように努力もした。
また、広島弁の指導をするときには、いつも頭の中にモデルがいた。
たとえば主演女優のんさんが声を担当した主人公「すずさん」のモデルは、栩野さんのお母さんだった。「母がしゃべっていた広島弁を思い浮かべながら教えた」と言う。
先日、呉駅前の食堂に行って、そこの女主人に「映画(「この世界の片隅に」)の広島弁どうだった?」と聞いた。すると「ほぼ完璧。一か所だけ違う」という返事だった。
違っていると指摘されたのは、呉駅に列車が到着するときの「くれー、くれー」というアナウンスが標準語の抑揚だったというのだ。ただ、これは当時の駅内アナウンスが標準語だったのに合わせたため「仕方がなかった」のだという。