ガウディへの旅(4)グエル公園に見る「自然と親しみながら暮らす」理想
広場のふちの蛇行するベンチは、タイルの破片で飾られた「リサイクル芸術」だ(写真/スペイン政府観光局)
バルセロナ中心部から地下鉄とバスを乗り継ぐと、バルセロナの街が一望できる「広場」のあるグエル公園に着く。ガウディの有力支援者だったグエル伯爵の依頼で、「自然と親しみながら暮らす」分譲住宅地として1900年に取りかかったが中断。現在は市民や観光客のための公園になっている。
なんといっても圧巻は、楕円形の広大なテラスとなっている中央広場だ。色とりどりのタイルの破片をモザイク状に組み合わせて飾っている。世界にこれほどユニークな「公園のベンチ」はないだろう。
世界に類を見ない「公園のベンチ」
地中海を想起する紺碧の青や水色が入り交じった部分があるかと思えば、春めいた黄緑色やピンク色の部分もある。茶色やオレンジ色、いわば「秋の色」の木々を想像させる部分もある。秋色であっても、それが陽光のもとの明るい秋色に見えるから不思議だ。
このベンチのある広場からバルセロナの街を見渡すと、いま地中海の港湾都市にいるのだとしみじみ実感できる。
このベンチの工事は、ガウディの弟子で重要な協力者でもあったジュゼップ・マリア・ジュジョール(1879年~1949年)が主に担当した。
もちろん、最終的なデザインや配色にはガウディの意向が働いたと思われる。ガウディが工事に参加していた作業員たちに、陶器工場やそれぞれの近所で廃棄された破片を集めるよう依頼していたとのエピソードも伝わっている。
この中央広場からは、分譲住宅地の「入り口」にある二つの建物も見える。「管理人の家」と「守衛の家」である。おとぎ話にでてきそうな、まるで「お菓子」でできているように見える建物だ。
この「入り口」から中央広場を見上げると、中央広場まで続く大階段が眼前に広がる。手前の真ん中には、タイル破片で装飾されたトカゲ像が見える。
中央広場は、たくさんのギリシャ風の柱で支えられているのが見える。このスペースは、分譲住宅住民のための市場になるはずだった。そして、その上の広場は、住民たちの憩いの場として建設された。そこからはバルセロナ市街が見渡せる。なんとぜいたくな住宅団地プロジェクトだったことか。
中央広場の下の「市場」予定スペースに入り、天井を見上げる。そこにもガウディ独特の「曲線」であふれていた。そして、タイル破片を使った二つの円形の装飾が見える。
「市場」の天井には、タイル破片を使った「太陽」と「月」の装飾
オレンジ色の光る天体を表現した円形の装飾は太陽、白っぽい方は月を表現している。ガウディは、「太陽の光」と「月光」のもとで、野菜や果物などの食品を売買する市場を構想したのだ。
中央広場の脇にある階段を降りていくと、こんどは斜めに立つ柱が並ぶ石造りの回廊がある。
これまで見てきた中央広場、「管理人の家」「守衛の家」、「市場」、石造りの回廊などグエル公園の主な見どころは、有料ゾーン内にあり、入場するにはチケットを購入する必要がある。
無料ゾーンにも様々な見どころがある。中でも、グエル公園の中でもっとも高い場所にある「カルヴァリーの丘」は、イエス・キリストが磔(はりつけ)になった「ゴルゴダの丘」を模してつくられており、三本の十字架が立つ。ここからは、ガウディが手がけ、今なお建設中の教会「サグラダ・ファミリア」がよく見える。
グエル公園の情報(英語):https://parkguell.barcelona/en
出典:「旅行読売」2019年5月号(「たびよみ」転載にあたって大幅に増補しました)