いにしえの歴史道、中山道・与川道で里山歩き(2)
途中で「山神社」と書かれた木造りの社(やしろ)を見かけた
民間信仰や歴史に彩られた道を宿場町の喫茶店へ
民間信仰の月待ちの記念碑である廿三夜(にじゅうさんや)塔前で小休止し、旧三留野(みどの)村と与川村の境界を流れる正善沢(しょうぜんさわ)を渡り、庄屋屋敷の軒先を抜けて、松原御小休所(まつばらおこやすみじょ)に寄った。やがて庚申塚(こうしんづか)や巡礼参拝碑が並ぶ阿弥陀堂にたどり着き、お堂の軒先に座り込んで、汗をぬぐいながらしばらく休んだ。それぞれのポイントには説明板が立っている。
にわか雨に打たれながら歩き続け、杉木立が茂る苔むした山道を上る。その先、「右やまみち、左のぢり道」と刻まれた石仏道標まで来れば峠は近い。たどり着いた根の上峠(ねのうえとうげ)には地図板があるだけだが、想定時間内にピークに上れた達成感は大きかった。ここから野尻宿まではひたすら舗装路を下っていく(未舗装の遊歩道もある)。
七曲(ななまがり)と呼ばれる湾曲した道筋の野尻宿を抜けると、目指す野尻駅に着く。時間があれば、宿場内の喫茶店で休んでいきたい。10年以上前からやっていて外国人客も多い「どんぐり」と、古民家を改装して昨年オープンした「珈琲刀(コーヒーかたな)」は、いずれも移住者が旧街道沿いの店で旅人をもてなしてくれる。
与川道唯一の古民家の宿にて
実は与川道には一軒だけ宿がある。代表の熊谷洋さんは地域おこし協力隊として東京から南木曽町に移住し、その後、当地にほれ込んで道沿いの空き家だった古民家を改装、2017年に「ホステル結い庵(ゆいあん)」をオープンした。「里山くらしのおすそわけ」をコンセプトに、宿泊者に自家栽培の野菜の料理を提供し、古材・古布などを使ったプロダクト事業を展開している。
「ここでの主役は自然であり、この風景は長い年月をかけ、暮らす人たちのたゆみない努力の結果、手に入れてきたものです。私たちの宿もその景観の一部としてあります」と里山の魅力を語る熊谷さんの言葉が印象深い。三留野宿や南木曽駅前にも系列宿が開業しており、ここを拠点に歩く人も増えるだろう。
文・写真/福崎圭介
おすすめの宿
景勝地・阿寺渓谷から約1㌔の木曽川沿いに立つ阿寺温泉の宿。大浴場ではぬめりのあるナトリウム-塩化物・炭酸水素塩冷鉱泉を循環利用。夕食は刺し身や鍋料理。阿寺渓谷の入り口までタクシー2分か徒歩10分。1泊2食1万2050円~(掲載時の料金。詳細は要問い合わせ)。
住所:長野県大桑村野尻939-58
交通:中央線野尻駅からタクシー5分(宿泊者は送迎あり、要予約)
TEL:0264-55-4455
モデルコース
【徒歩時間5時間30分】
南木曽駅(スタート)
↓徒歩40分
三留野宿
↓徒歩40分
廿三夜塔
↓徒歩30分
正善沢
↓徒歩40分
与川村庄屋屋敷
↓徒歩1時間
阿弥陀堂
↓徒歩1時間
根の上峠
↓徒歩1時間
野尻宿
↓徒歩すぐ
野尻駅(ゴール)
与川道コースアドバイス
休憩を含め全行程5〜6時間かかるので、暗くなる前に野尻駅に着くよう逆算して出発を。列車は本数が少ないので事前に時間を調べよう。道中、店がないので飲み物は多めに持参。熊よけの鈴や雨具も持っていきたい。未舗装の道も多いが、分岐に道標や地図が整備されており、見落とさなければ迷うことはない。
歩き慣れていない初心者は、与川道の前に中山道・木曽路のハイライトである馬籠峠や鳥居峠で足慣らしをしておくほうがいい。その際、木曽路の道筋を詳細に記した地図「中山道を歩く」が便利。木曽の各観光協会などで無料配布している。
交通:名古屋駅から中央線特急50分の中津川駅で普通に乗り換え18分、南木曽駅下車/中央道中津川ICから25㌔で南木曽駅
問い合わせ:TEL0264-23-1122(木曽観光連盟)、TEL0264-57-2727(南木曽町観光協会)、TEL0264-55-4566(大桑村観光協会)
(出典「旅行読売」2020年11月号)
(ウェブ掲載2021年7月20日)