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いにしえの歴史道、中山道・与川道で里山歩き(1)

場所
  • 国内
  • > 北陸・中部・信越
  • > 長野県
> 南木曽町、大桑村
いにしえの歴史道、中山道・与川道で里山歩き(1)

山並みと集落の間の道をゆく。こうした素朴だが味わいのある里山風景が何度も見られる

 

江戸の旅人が迂回で峠越え

江戸時代の五街道の一つ、中山道(なかせんどう)の街道風情が色濃く残る木曽エリアは、多くの外国人旅行者が「この国らしい風景」を求めて歩くインバウンド先進地だ。馬籠(まごめ)宿〜妻籠(つまご)宿間の馬籠峠などメインルートを歩き終えた〝木曽路ハイカー〞たちが「あまり知られていない歩きがいのある道」を求めて開拓し、近年口コミやSNSで注目されているサブルートがある。

与川道(よがわみち)ーー。中山道と並行して流れる木曽川が氾濫(はんらん)した時、旅人たちはこの道を迂回して峠を越えた。長野・岐阜県境に近い三留野(みどの)宿から野尻宿まで、JR駅でいえば南木曽駅〜十二兼(じゅうにかね)駅〜野尻駅の間、普通なら直線で徒歩3時間のところを、逆「く」の字を描くように根上峠(ねのうえとうげ)を回って5〜6時間かけて歩く。

途中に店も自販機もない田舎道がなぜ人気なのか。理由はそのまま同語反復になるが、歴史の痕跡と里山の風景が残るありのままの田舎道だからということになる。

サブルートとはいえ、旧街道として地図に載り、一部は国の史跡指定を受けている。「史跡 中山道」は「馬籠峠から与川道の根の上峠までの総延長19.6 ㌔のうち、中山道の旧態が良く残っている8.5㌔」が該当し、これは日本遺産「木曽路はすべて山の中」の構成文化財でもある。

その魅力を知ろうと朝、南木曽駅を出発した。途中に店がないので飲み物と昼食は用意していく。駅裏手の跨線橋を渡って坂を上ると旧中山道に入り、最初の分岐点を左、江戸=東京方面へ向かう(右は妻籠宿)。線路沿いの材木置き場やその先の山並みを見ながらゆるい坂を上り、また下る。

最初のポイントとなる三留野宿は中山道41番目の宿場跡で、出梁(だしばり)造りの民家と常夜灯が残る。家並みを抜けると、本道から山に向かう坂が延びており、この分岐からいよいよ与川道に入る。標高約400㍍の南木曽駅から約850㍍の根の上峠まで4、5時間で上り、約530㍍の野尻駅まで1時間で下る。全長約15㌔のコースだ。

妻籠宿
妻籠宿の宿場の町並みは木曽を代表する景観。時間があれば寄りたい。南木曽駅からバス7分
三留野宿の常夜灯
三留野宿の常夜灯
竹やぶ
竹やぶが茂る林道。歩きやすいよう木道になっている場所も多い。倒れた竹をまたいで進む

街道沿いに暮らす人たちの姿

田畑の脇の舗装路から未舗装の林道や畦道(あぜみち)に入り、渓流沿いの山道を上って再び舗装路に出る。しばらくしてまた林道へ。時々、小さな集落を抜け、沢にかかる橋を渡る。その繰り返しだが、決して単調ではない。民家の軒先を抜けたり、生い茂る林をかき分けたり、倒木をまたいだりと、道標が指し示す道は変化に富んでいる。次第に足腰に疲労を感じつつも、色鮮やかな野花や鳥獣の声、水風が生むさまざまな音が心地いい。

集落を歩きながら里山という言葉を実感していた。山と里の間の境界線のように白い道が延び、山の緑は深く、民家や田んぼに安らぎを覚える。かつて山は恵みであるとともに畏(おそ)れる存在であり、人が暮らす里との間にあるのが、里山ではなかったか。そんな風景が季節の彩りとともに広がる。

一説には、里山という言葉が初めて登場する史料は、木曽にゆかりが深い。木曽五木(ごぼく)を取り締まる尾張藩上松(あげまつ)材木役所の役人が1759年に記した「木曽山雑話」に「村里家居近き山をさして里山と申し候(そうろう) 」とある。当時も同じような風景が見られたのだろうか。

草刈りする地元の人たちを何人か見かけた。「与川の人はまめに草を刈るのです。畦や庭先がきれいに刈り込まれているからこそ、田園が美しく見える。旅人が往来する道沿いゆえの習わしなのかはわかりませんが」と、同行してくれた木曽観光連盟のスタッフは話す。

編み笠(がさ)姿で畑仕事をする農民もいた。この蘭桧笠(あららぎひのきがさ)はヒノキを薄く削り手編みした地元蘭地区の伝統工芸品だ。ある集落では羊が放たれていて驚いた。

文・写真/福崎圭介

いにしえの歴史道、中山道・与川道で里山歩き(2)へ続く

※注意……途中に店がない約15㌔の里山道・山道で、通行人も少ないため、初心者の方は必ず山道やトレッキングなどで歩き慣れている人と一緒に歩いてください。また、基本は日帰りで歩き通す想定になるため、朝早くの出発を推奨します。

沢にかかる橋
沢にかかる橋を渡る
未舗装の野道
未舗装の野道。わかりづらい分岐点には必ず道標が立っている
民家の軒先
民家の軒先など、与川道は変化に富んでいる
花
民家の庭先の花や野花が目を楽しませてくれる

モデルコース

【徒歩時間5時間30分】

南木曽駅(スタート)

↓徒歩40分

三留野宿

↓徒歩40分

廿三夜塔

↓徒歩30分

正善沢

↓徒歩40分

与川村庄屋屋敷

↓徒歩1時間

阿弥陀堂

↓徒歩1時間

根の上峠

↓徒歩1時間

野尻宿

↓徒歩すぐ

野尻駅(ゴール)

与川道コースアドバイス

休憩を含め全行程5〜6時間かかるので、暗くなる前に野尻駅に着くよう逆算して出発を。列車は本数が少ないので事前に時間を調べよう。道中、店がないので飲み物は多めに持参。熊よけの鈴や雨具も持っていきたい。未舗装の道も多いが、分岐に道標や地図が整備されており、見落とさなければ迷うことはない。

歩き慣れていない初心者は、与川道の前に中山道・木曽路のハイライトである馬籠峠や鳥居峠で足慣らしをしておくほうがいい。その際、木曽路の道筋を詳細に記した地図「中山道を歩く」が便利。木曽の各観光協会などで無料配布している。


中山道 与川道

交通:名古屋駅から中央線特急50分の中津川駅で普通に乗り換え18分、南木曽駅下車/中央道中津川ICから25㌔で南木曽駅

問い合わせ:TEL:0264-23-1122(木曽観光連盟)、TEL:0264-57-2727(南木曽町観光協会)、TEL:0264-55-4566(大桑村観光協会)

(出典「旅行読売」2020年11月号)

(ウェブ掲載2021年7月20日)


Writer

福崎圭介 さん

新潟県生まれ。広告制作や書籍編集などを経て月刊「旅行読売」編集部へ。編集部では、連載「旅する喫茶店」「駅舎のある風景」などを担当。旅先で喫茶店をチェックする習性があり、泊まりは湯治場風情の残る源泉かけ流しの温泉宿が好み。最近はリノベーションや地域再生に興味がある。趣味は映画・海外ドラマ鑑賞。

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