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運行わずか9年の幻の鉄道

場所
> 木津市 奈良市
運行わずか9年の幻の鉄道

120年以上前の石垣がそのまま残っている観音寺橋台

隧道(すいどう)や橋台など遺構を巡る

「この上を走ってたんだって。」――これは京都府木津川市と奈良市が制作した大仏鉄道ポスターのキャッチフレーズだ。

大仏鉄道は、1898(明治31)年~1907(明治40)年に加茂駅から大仏駅を経て奈良駅まで9.9㌔を走っていた関西鉄道の愛称。真っ赤なイギリス製の蒸気機関車が走っていたという。しかし、木津駅を経由するルートが開通すると、わずか9年で廃線に。当時の写真はおろか資料も少ないことから“幻の鉄道”と呼ばれている。

ただ、遺構は各所で見られ、約20年以上前から大仏鉄道を研究する大仏鉄道研究会の長田富枝さんと難波久士さんに案内してもらいながら廃線跡を歩くことにした。

加茂駅西口に、明治時代の駅待合室を再現した喫茶店「大佛汽茶」がある。同じビルに木津川市観光協会もあり、大仏鉄道遺構の見どころなどを教えてくれるのでここを起点に散策を始めた。 

早速近くに、加茂駅開業時にできた赤レンガ造りのランプ小屋があった。客車の照明に使う石油ランプや燃料を保管した倉庫だ。

駅の東側へ回り、のどかな田園風景の中を進む。遠くに関西線の列車の音が聞こえてくると、「今から電車が通る橋が、大仏鉄道も並走していた観音寺橋台です」と長田さんが教えてくれた。

近くまで行くと、関西線の橋梁と大仏鉄道の橋台が寄り添うようにあった。花崗岩の橋台の石積みは算木積みの構造が美しく、当時の技術の高さに驚いた。

道々に案内板があって歩きやすい
道々に案内板があって歩きやすい

通り抜けられる隧道

観音寺橋台の先から竹林に囲まれた小道を歩くと、重厚な石積みの鹿背山橋台が現れた。草木に覆われているが、美しい姿は健在だ。ここから大仏鉄道の築堤に沿うように進み、廃線跡を利用した道路の下に下りると隧道に出た。

「このアーチ型の構造物はレンガ造りと石積みの梶ヶ谷隧道です。大仏鉄道の隧道で唯一、通り抜けられるんですよ」と長田さん。

長さ約16㍍の隧道を抜けると、今度は赤レンガが特徴の赤橋。数本の木材と石材で、今は歩行者用となった道路を支えていた。ポスターを思い出し、この橋の上を蒸気機関車が煙を吐いて走っていたことを想像する。

赤レンガが美しいアーチを描く梶ヶ谷隧道
赤レンガが美しいアーチを描く梶ヶ谷隧道
この上を大仏鉄道が走っていた赤橋
この上を大仏鉄道が走っていた赤橋

大仏鉄道で最大の難所へ

赤橋から先、起伏やカーブが廃線跡を思わせる舗装路を歩く。梅美台交差点を左折すると、ロードサイド店舗が建ち並ぶエリアに出た。歩道には線路がデザインされ、廃線跡歩きの気分も盛り上がる。

梅美台西交差点の手前に木製のモニュメントがあった。関西鉄道の社章を模したもので、難波さんが大仏鉄道研究会会長時代の5年ほど前に寄贈した。遺構について熱く語る長田さん、難波さんからは、大仏鉄道への並々ならぬ思いが伝わってくる。

モニュメントから階段を下りると松谷川隧道があった。色の異なる焼きレンガを組んだ当時の姿を留め、隧道内は上が通路、下が用水路の2段構造になっている。

さらに南下し、京都府から奈良県へ入った。ただ残念ながら、長田さんによると、都市開発が進んで奈良側の遺構はあまり残されていないらいしい。それでも、面影を感じられるポイントは点在し、少し先に松谷川隧道よりも内部が狭い鹿川隧道がひっそりと口を開けていた。

鹿川隧道を過ぎ、大仏鉄道で最大の難所だった黒髪山トンネル跡へ向かう急坂を上る。このトンネルは1966(昭和41)年頃まで残っていたが、道路拡張に伴い山ごと削り取られて跡形もない。現在は、道路のはるか上に架かる跨道橋が見せる空間が、トンネル跡地であることを感じさせてくれた。

道なりに市街地へと入る。かつて大仏詣での参拝客でにぎわったとされる広い構内の大仏駅も、痕跡は何一つ残っていない。駅の南端部にあたる一角に唯一、ここに大仏鉄道が走っていたことを物語る大仏鉄道記念公園が整備され、蒸気機関車の動輪モニュメントが静かに見守っていた。

線路風デザインを施した歩道
線路風デザインを施した歩道

<問い合わせ>

大仏鉄道研究会(担当:長田)

TEL:0742-23-4934

奈良市観光戦略課

TEL:0742-34-5135

木津川市観光商工課

TEL:0774-75-1216

(出典「旅行読売」2021年6月号)

(ウェブ掲載2021年8月12日)

Writer

松尾 諭 さん

フォトグラファー・ライター。1977(昭和52)年奈良県生まれ、三重県育ち。旅行会社勤務を経て、2005(平成17)年に鉄道ジャーナル社の『旅と鉄道』編集部へ。2009(平成21)年からフリーのフォトグラファー・ライターとなる。旅行雑誌や鉄道趣味誌などで取材を行い、写真や記事を発表。全国各地へ鉄道風景や絶景を求めて撮影行脚を続けている。

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