【文化財級の宿】きんせ旅館
大正時代へタイムスリップしたような1階のカフェバー
揚屋建築に泊まる 1日1組限定の宿
幕末には討幕派の志士のみならず、新選組なども通ったという花街・島原。その一角に立つ「きんせ旅館」は、江戸末期に揚屋(あげや) として建てられたとされる。揚屋とは、遊女を呼んで遊興する店だ。2階の掃き出し窓や1階の出格子(でごうし)などに、花街の風情が漂う。
「この建物を曾祖母が買い取り、大正初期に旅館を始めました」と語るのは、この宿を営む矢部浩二郎さん。旅館は矢部さんの祖母が受け継いだが、昭和の終わり頃には営業を停止。その後、建物は祖母の自宅として使われていたが、矢部さんが移り住み、リノベーションに取り組んだ。
「若い頃は祖母の家としか思っていませんでしたが、アメリカで2年間暮らしたことで、この建築物の素晴らしさに気付かされました」と矢部さんは言う。京都市から歴史的風致形成建造物の認定を受け、2009年に1階でカフェバーを始めた。
さらに2011年からは、6畳間三つと20畳間、洋室がある2階を活用し、1日1組(6人以内)限定の素泊まりの宿として、旅館業も再開した。2階の構造や障子格子(しょうじごうし) などの意匠や壁紙などにも、かつて揚屋だった面影が残る。
旅館としては、過剰なサービスは行わず、カジュアル志向の家族や小グループに人気。「街外れに面白い宿がある」と聞きつけて泊まりにくる人も多いという。
話をカフェバーに戻すと、揚屋時代、料理を出すための広い台所だったとされる1階を、大工の棟梁だった曾祖母の弟が洋風のホールに改装。折上格天井(おりあげごうてんじょう)の開放的な空間、寄せ木張りの床、大正ロマン香るステンドグラスや京都生まれの泰山(たいざん)タイルなどを使った「洋風」装飾が、「和」そのものの外観や2階とコントラストをなしていて面白い。
泊まるもよし、カフェバーでグラスを傾けるもよし。いずれにしても、元揚屋の雰囲気を味わうことができるだろう。
文・写真/児島奈美
住所:京都府京都市下京区西新屋敷太夫町80
交通:山陰線丹波口駅から徒歩7分/名神高速京都南ICから6㌔
TEL:075-351-4781 ※カフェバー営業時(17時~24時/火曜休)のみ
料金:1人宿泊(食事なし)2万円~、2人宿泊(食事なし、1人当たりの宿泊費)1万円~(※掲載時の料金。公式ホームページなどで要確認)
客室:6畳和室3室(客室)+20 畳和室(リビング)+10 平方㍍洋室(同)+バス・トイレ
※予約は電話不可で、airbnb(エアビーアンドビー)のホームページからのみ
※きんせ旅館は文化財ではありませんが、歴史的風致形成建造物の認定を受けており、「文化財級の宿」として紹介しています。
(出典:「旅行読売」2022年6月号)
(Web掲載:2022年6月7日)