【私の初めてのひとり旅】市川紗椰さん 東欧(1)
いちかわ さや(モデル)
1987年、愛知県生まれ。父親はアメリカ人、母親は日本人で、幼少期から14歳までアメリカ・デトロイトで育つ。帰国後に早稲田大学卒業。「ViVi」「sweet」「MORE」など各雑誌でモデルとして活躍。2016年~17年はフジテレビの報道・情報番組「ユアタイム」で司会を務めた。鉄道ファンとしても知られる。著作に『鉄道について話した。』(集英社)など
「もの心ついた時には、ひとりで旅をしていました」
物心ついた時には、ひとりで旅をしていました。父がアメリカ人で、アメリカで暮らしていて、小学生の頃から日本に遊びに行くのに、ひとりで飛行機に乗っていました。デトロイトの飛行場まで親に送ってもらい、名古屋の空港まで親戚に迎えにきてもらって。仕事でヨーロッパに出張する父に付いて行き、別行動で回ったこともあります。気が付いたらひとりで移動していた感じです。
ただ、19歳の時に旅した東欧は、はっきり覚えています。プラハ、ウィーン、ブダペスト。ドイツの友人に初めて会いに行くためひとりで渡欧し、街並みを見たかった都市を巡りました。その頃から事前にしっかり計画を立てるタイプで、しかも1か所だけではもったいないと思うタイプでもあり、行きたい場所を詰め込みました。
チェコのプラハでは作家のカフカの博物館とクリムトの絵を、ウィーンではコンサートを見ました。ハンガリーのブダペストは、作曲家のリストの記念館とハンガリー国鉄が目的でした。特にブダペストは肌に合い、その後も何度か訪れました。19歳の時は、なぜかヨーロッパの国はどこも近くて1泊すればどこにでも行けると思い込んでいました。
「ひとり旅は、ひとりぼっちではなく、ひとりじめ」
目的を決めず、街をぷらぷらするのも好きです。起伏のある街の階段、石畳の路地。電車やバスに乗り降りして、店の看板のデザインを眺めたり、買い物したり。レコード店はその街の傾向が知れるのでなるべく寄ります。小物店や洋服店ももちろん好き。ブダペストで素敵な古着屋を見つけて、渋いレザーのクラッチバッグを買いました。和装に合うんです。さらに古着の安いウエディングドレスを買って、帰国後に膝上の長さの普段着に仕立て直しました。そんな風に物を買いすぎるのが失敗談といえば失敗談ですが、おかげで空港や駅で荷物を運ぶのを手伝ってくれる人をかぎ分ける能力が身に付きました(笑)。
東欧の食事も合いました。カモやアヒルの料理。ヤギのチーズ。マッツァーと呼ばれるクラッカーをつぶしてスープに入れるユダヤ料理。市場のおばさんにおいしいものを教わったり、列車で隣の人に食べ物をもらったり、食を通じたやりとりも思い出です。「おいしい」は人間共通の感覚。言葉がわからなくても、食を通して伝わるものがあります。
ひとりで食べるご飯が好きです。人と食べる食事ももちろんおいしいのですが、ひとりの場合はかみしめるしかないので、おいしく感じます。しかも3食同じとか、“ダメ”な食べ方をしてもいい。実際、そうやって過ごしたこともあります。ひとり旅は“自己チュー”で、誰かに気を使わなくてもいい解放感がある。ひとりぼっちではなく、ひとりじめなんだと思います。
聞き手/福﨑圭介