【私だけのひとり旅】青もみじの庭園と京菓子の奥深さ 京都へ(1)
建仁寺の「潮音庭」。北山安夫が手がけ、2005年に公開された
新緑を浴び、京あんこを堪能する
気兼ねなく外出できる解放感からか、移ろう季節に旅心を刺激される。桜を過ぎ新緑の頃に訪れるなら、青もみじに染まる京都の庭園がいい。名のある作庭家が手がけた美しい庭を巡りつつ、京菓子の伝統に育まれたおいしい京あんこを堪能しようと、ひとり旅に出た。
京都駅に降り立ち、まず目指したのは、比叡山西麓の八瀬(やせ)にある瑠璃光院(るりこういん)。庭園の青もみじや紅葉の見頃に合わせて公開されており、今春の特別拝観は5月31日まで。大原行きのバスに揺られて市街地から山中へと入り、八瀬駅前バス停から高野川沿いを歩く。風光明媚な八瀬の地は平安時代から保養地として愛されてきたといい、広大な寺域を有する瑠璃光院は、四季折々の景観で人々を惹きつけている。
山門をくぐって石段を進めば数寄屋造りの書院が立ち、2階に上がると幻想的な光景が目に飛び込んでくる。書院の窓に切り取られて絵画のような青もみじと、座卓や床への映り込み(リフレクション)で、近年は特に人気が高い。苔(こけ)に覆われた「瑠璃の庭」には流水が優しい曲線を描き、心安らぐひと時が過ごせる。
瑠璃光院の最寄りの八瀬比叡山口駅から叡山(えいざん)電車に乗り、出町柳駅へ。同行者のいないこの機会に、ここでどうしても試してみたいことがあった。餡(あん)のおいしさで知られる京銘菓の食べ比べである。いずれも駅の近くにある老舗で、事前に予約しておいた菓子を購入。高野川と賀茂(かも)川の合流地点にある鴨川デルタのベンチでひと休みすることに。
「阿闍梨餅(あじゃりもち)本舗 満月」の阿闍梨餅は、封を切るとほんのり香ばしい。むっちりとした皮に包まれたつぶ餡は甘さ控えめ。この餡が阿闍梨餅のためだけに存在すると知れば、餅生地との絶妙な調和にも納得がいく。東の方角に目をやれば、比叡山から連なる東山三十六峰の山並み。阿闍梨とは比叡山で修行する高僧を指し、菓子の形はその阿闍梨がかぶる網代笠(あじろがさ)を象(かたど)っている。
続いて「出町ふたば」の「名代 豆餅」。大粒の赤エンドウがゴロゴロ入った大福を口に運ぶと、きめ細かな餅がぐーんと伸びる。滋賀羽二重糯(はぶたえもち)の新米を使用した風味のある餅で、舌触りの滑らかなこし餡がたっぷりくるまれている。餡の上品な甘さと赤エンドウの塩気がたまらない。古くは大原女(おはらめ)がおやつにしたと言い、食べ応えも十分。しっかり腹ごしらえするなら赤飯もおすすめだ。
文/内山沙希子 写真/谷口 哲ほか
【私だけのひとり旅】青もみじの庭園と京菓子の奥深さ 京都へ(2)へ続く
京都 立ち寄りたい店&庭
1856年創業。大正期に誕生した銘菓・阿闍梨餅は、丹波大納言小豆のつぶ餡を餅生地で包んで焼き上げた半生菓子だ。「一種類の餡で一種類の菓子しか作らない」ため、商品は阿闍梨餅、京納言、満月、最中の4種のみ。4種の菓子で4種の餡が味わえる。
■9時~18時/水曜不定休(時期により休業日あり)/京阪鴨東線出町柳駅から徒歩10分/TEL:075-791-4121
※掲載時のデータです。
出町ふたば
出町商店街にあり、創業は1899年。おやつにぴったりの大福が並ぶ看板商品の「名代 豆餅」は、十勝産小豆のこし餡が軟らかく弾力のある餅にくるまれ、赤エンドウがアクセントになっている。つぶ餡の田舎大福、赤飯や季節のおこわも人気。
■8時30分~17時30分/火曜・第4水曜 (祝日の場合は翌日)休/京阪鴨東線出町柳駅から徒歩5分/TEL:075-231-1658
※掲載時のデータです。
青もみじや紅葉の時期は、庭園の景観が人々を和ませる。寺院の正式名称は無量寿山光明寺(むりょうじゅさんこうみょうじ)京都本院 瑠璃光院。約1万2000坪の敷地に数寄屋造りの建物と日本庭園があり、春・夏・秋に期間限定で公開されている。「瑠璃の庭」「臥龍の庭」「山露地の庭」が見られる。
■2023年春の特別拝観は4月15日~5月31日の10時~16時30分/期間中無休/2000円/叡山電鉄八瀬比叡山口駅から徒歩5分/TEL075-781-4001(今春は予約なし)
※掲載時のデータです。