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【青春18きっぷでできること】湿原のトロッコ列車と、ひと駅37キロの車窓に見る北の鉄路の栄枯盛衰(2)

場所
【青春18きっぷでできること】湿原のトロッコ列車と、ひと駅37キロの車窓に見る北の鉄路の栄枯盛衰(2)

人里離れた山間部を走る石北線。動物の侵入で減速することもよくある(写真/丸山裕司)

 

 

北の鉄路をのんびりゆけば、ここにしかない風景が見つかる

【青春18きっぷでできること】湿原のトロッコ列車と、ひと駅37キロの車窓に見る北の鉄路の栄枯盛衰(1)から続く。

 

オホーツク海から内陸の深部へ

塘路湖畔の遊歩道を散策した後、再び釧網線に乗り、網走へ向かう。阿寒摩周国立公園の深い森が終わると、列車は広大なジャガイモ畑や麦畑の間を抜ける。

知床斜里駅を過ぎた頃に景色はまたガラリと変わり、オホーツク海が現れた。右後方に知床半島と海う な別べ つ岳が見える。止や む別べ つ駅、北浜駅、藻琴(もこと)駅には大正時代後期に建てられた木造駅舎が残っており、各駅で停車するたび、風雪に耐えてきた味わい深い建物へと乗客の視線が集まる。

5月〜10月にだけ営業する原生花園駅の前後では、エゾスカシユリやハマナスが線路脇に明るい色を添える。左にラムサール条約登録湿地の濤沸湖(とうふつこ)が見え、放牧された馬がゆったりと草をはんでいた。

オホーツク海のすぐそばを走る釧網線。厳冬期には流氷が海岸に寄せる(写真/丸山裕司)
木造駅舎の事務所を改装した飲食店「食事&喫茶トロッコ」が営業している藻琴駅(写真/丸山裕司)
沿線には砂浜に適した海岸性植物が季節の花を咲かせる(写真/丸山裕司)

網走で一泊し、翌日は石北線に乗って旭川方面へ。途中下車した北見を過ぎると、列車はどんどん急峻な山間部に分け入っていく。工事殉難者追悼碑が立つ常紋(じょうもん)トンネル、全長4329メートルの石北トンネルなど、鉄路を通すのには幾多の困難を伴った。今でも冬の除雪に労力を必要とする山越えの難所である。

白滝(しらたき)駅を出ると、列車はしばらく停車駅のない区間に入る。次の上川駅まではなんと37.3キロ、最大54分も止まらず黙々と走り続ける。この駅間距離はJRの在来線で最長だ。もとは道内最高所だった上越(かみこし)駅を含む5駅が間にあったが、利用者の減少などから2016年までに相次いで廃止されたためである。

北海道では今春、留萌(るもい)線の一部区間がその役目を終え、富良野― 新得(しんとく)駅間も24年春での廃止が決まっている。過疎地での路線の維持はやはり難しいものの、寂しい限りだ。

鬱蒼(うっそう)とした森と長いトンネルの闇を抜けて到着する旭川駅は、人の気配が消えた廃駅跡の数々とは対照的に、きらきらと明るく輝いていた。のんびり走る鈍行列車の旅、青春18きっぷの旅だからこそ沿線の遺構にも自然と気づき、北国の交通網の変遷がもたらした盛衰の歴史を垣間見たように思えた。

文/春日明子

2016年に廃止された旧白滝駅。今はこの駅舎も解体されてしまった(写真/ピクスタ)
写真/ピクスタ

富良野・美瑛ノロッコ号

花畑が色づく季節に富良野―旭川駅間を運転する展望列車。旭川に泊まれば翌日10時発の列車に乗車できる。2024年3月末で富良野線の富良野―新得駅間が廃止されることもあり、注目が集まっている。

■ 運転区間:旭川(始発・終着のみ)・美瑛―富良野
■ 運転期間:6月10・11日、6月17日〜8月13日の毎日、8月19日〜9月24日の土・日曜、祝日
■ 料金:旭川―富良野間1290円 ※ 青春18きっぷ利用可能(指定席料金は別途840円)


レトロな建物も目を引く

北見ハッカ記念館・薄荷蒸溜館

世界に輸出したハッカ産業の歴史を知る

かつて北見産のハッカは世界市場の7割ものシェアを占めていた。日本近代化産業遺産に認定されている生産の歴史を学び、昔の蒸留機器も見ることができる施設。

9時〜17時(11月〜4月は9時30分〜16時30分)/無料/月曜(祝日の場合は翌平日)・年末年始休/北見駅から徒歩10分/北見市南仲町1-7-28/TEL:0157-23-6200

 

※すべて掲載時のデータです

(出典:「旅行読売」2023年7月号)

(Web掲載:2023年7月21日)

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Writer

春日明子 さん

1979年生まれ、神奈川県出身。会社員時代に釣りに目覚め、いつの間にか釣り新聞の編集者となる。編集プロダクションにて旅行雑誌やコーヒー専門誌、機内誌を中心に編集・執筆活動を続けたのち、鮭釣りに訪れた北海道で人生の伴侶を釣り上げ、2016年に別海町へ移住。酪農地帯の真ん中で原稿を書く。

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