【ミニシアターのある町】特別インタビュー 井浦新さん「ミニシアターと僕の関係」(1)
いうら・あらた(俳優)
1974年、東京都生まれ。98年、映画「ワンダフルライフ」に初主演。以降、映画を中⼼にドラマ、ナレーションなど幅広く活動。アパレルブランド〈ELNEST CREATIVE ACTIVITY〉ディレクター。サステナブル・コスメブランド〈Kruhi〉のファウンダー。恩師・若松孝二監督役を自ら演じる「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」は来春公開予定。
2020年からミニシアターを応援するプロジェクト「ミニシアターパーク」(※1)を続けている俳優の井浦新さん。どのような思いで映画館とかかわってきたのか話を聞いた。
一俳優として何ができるのかを考えた
「ミニシアターパーク」の立ち上げは、国内で最初に緊急事態宣言が出た直後、2020年5月でした。同時期に是枝裕和(これえだひろかず ※2)監督らが中心となって結成された支援プロジェクト「SaveThe Cinema(セーブ・ザ・シネマ)」と、若手監督らによるクラウドファンディング「ミニシアター・エイド基金」がすでにあって、僕も前者の賛同人に名を連ねていました。その中に俳優の齋藤工(たくみ)くんと渡辺真起子さんのお名前があるのは知っていて、ある時、電話をしたんです。お二人はどんなことを考えているのだろうと。
2か月くらい俳優の仕事が止まり、行動制限で映画館に行けなくなりました。我々の仕事は作品を作り、各地の映画館に届けることです。それができなくなるかもしれない危機感がありました。それまで出演作公開時の舞台挨拶やトークイベントで、全国のミニシアターに行きました。顔見知りの支配人、スタッフの方々、地域のお客さんの顔が浮かびました。
映画館は特殊な空間で、暗闇の中、見たことのない景色を見て、味わったことのない感情を得る。そこに通うのは習慣が必要だったりします。ロビーは鑑賞後の感想を語り合うサロンであり、映画館は文化施設。長い時間をかけて映画体験を提供し地域に根付いてきたからこそ、それらが失われたら、組み立て直すにはものすごい気力と労力が必要です。失われ、忘れられることに恐怖を感じていました。
映画館は誰もが気軽に立ち寄れる公園のような場所
一俳優として何ができるのかを考えていて、ひとりでできること、伝えられることに限界を感じました。そこでお二人に、一緒に何かできないか相談をしました。事務所を超えて、俳優がミニシアターとつながれるのではないか。映画館に寄り添えるのではないか。同じ思いを持つ俳優が声を出しやすい場を作りたい。そんな考えで、映画館を応援するプラットフォームを立ち上げました。「ミニシアターパーク」と名付けたのは、映画館は誰もが気軽に立ち寄れる公園のような場所であってほしいという思いからです。
その後、共感してくれる制作会社や「ミニシアター・エイド基金」のスタッフの協力もあり、有志が集まって実行委員のようなものもでき、応援動画の制作やオンラインイベント・ディスカッション、オリジナルTシャツの販売などを行ってきました。「ミニシアターパーク」は、動かなくてよくなることが最終目的。今は、俳優とミニシアターの関わりの場所、つなぎ合わせるハブでもあり、どのような形で活用してもいいと思っています。
聞き手/福﨑圭介
【ミニシアターのある町】特別インタビュー 井浦新さん「ミニシアターと僕の関係」(2)へ続く
※1 ミニシアターパーク……俳優の井浦新、斎藤工、渡辺真起子が発起人となり立ち上げた、コロナ禍のミニシアターを応援するプロジェクト。俳優とミニシアターを結び付けるプラットフォームを目指している。詳細は公式ホームページ参照。
※2 是枝裕和……1962年、東京生まれ。映画監督。95年、「幻の光」で映画デビュー。「ワンダフルライフ」のナント三大陸映画祭・グランプリ、「海街diary」「三度目の殺人」の日本アカデミー賞・最優秀作品賞、「万引き家族」のカンヌ国際映画祭パルム・ドールなど受賞歴多数。
井浦新、田中麗奈主演の映画「福田村事件」は、関東大震災発生の100年後の9月1日より、渋谷ユーロスペースなどで公開。社会派ドキュメンタリー作品を手掛けてきた森達也監督が、関東大震災直後の混乱の中で実際に起こった虐殺事件・福田村事件を題材に撮影した。
(出典:「旅行読売」2023年9月号)
(Web掲載:2023年10月1日)