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【ミニシアターのある町】特別インタビュー 井浦新さん「ミニシアターと僕の関係」(2)

【ミニシアターのある町】特別インタビュー 井浦新さん「ミニシアターと僕の関係」(2)

いうら・あらた(俳優) 

1974年、東京都生まれ。98年、映画「ワンダフルライフ」に初主演。以降、映画を中⼼にドラマ、ナレーションなど幅広く活動。アパレルブランド〈ELNEST CREATIVE ACTIVITY〉ディレクター。サステナブル・コスメブランド〈Kruhi〉のファウンダー。恩師・若松孝二監督役を自ら演じる「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」は来春公開予定。

 

2020年からミニシアターを応援するプロジェクト「ミニシアターパーク」(※1)を続けている俳優の井浦新さん。どのような思いで映画館とかかわってきたのか話を聞いた。

 

ミニシアターは俳優としての自分を生み育ててくれた場所

【ミニシアターのある町】特別インタビュー 井浦新さん「ミニシアターと僕の関係」(1)から続く

ミニシアターは俳優としての自分を生み育ててくれた場所です。10代の頃、今はもうない渋谷シネマライズや吉祥寺バウスシアターに通いました。是枝監督に声をかけてもらい、23歳で俳優デビューした時は、映画界にポンと放り込まれた感じでした。デビュー作「ワンダフルライフ」がそのシネマライズで上映され、初日舞台挨拶でスクリーンの前に立ちました。夢のように不思議で、理解しがたい体験でした。

俳優を目指して入った世界ではなかったので、気持ちが備わっていなかった分、理解が追いつくのに時間がかかりました。デビューから約10年、必要としてくださる監督の作品を中心に少しずつキャリアを積んできて、映画作りの面白さ、尊さを感じるようになった頃、若松孝二(※3)監督と出会いました。ミニシアターのポレポレ東中野のロビーに「若松孝二に映画『実録・連合赤軍』を撮らせたい」というカンパを募るチラシがあり、キャストの募集をしていました。元々興味があるテーマで、事情に詳しい若松監督が連合赤軍を撮ることは個人的に大事件。

若松プロに電話をかけたら監督本人が出て、「俳優をやっているARATA(旧芸名)と申します」とオーディションに参加したい旨を伝えると、「知らないなあ。今、助監督がいないから明後日もう一度電話してきなさい」と言われて(笑)。「現場の末席でも掃除係でもいいので、参加させてほしい」と訴えました。

若松組では、映画作りの難しさを強烈に肌で感じるからこその、生きている実感がありました。今までやってきたことが通用しないのです。ある時、監督に言われました。「新(あらた)はなんで仕事をセーブしながらやっているんだ。俳優というのは素晴らしい仕事。人生は一度きりだけど、役を通していくつもの人生を生きられる。自分で自分の可能性を狭めないほうがいい」と。「何でもやってみなさい」という監督の言葉が胸に突き刺さり、背中を押されました。テレビドラマでも舞台でも、来たものは全部やってみようと。自分が見たことがない自分、見たことがない景色を見るためには、現場に飛び込んでいくしかありませんでした。

映画館に自分で足を運んで作品を届ける

是枝監督と若松監督は、俳優としての僕の〝生みの親〟と〝育ての親〟です。ご一緒していると全国の映画館との出会いが多いんです。映画館での舞台挨拶やトークイベント、上映後の観客の皆さんとのディスカッションを大事にしている方たちなので。

お二人に教わったことが俳優としてのベースになっています。映画館に自分で足を運んで作品を届けること。撮影が終わったら完結ではなく、見た人たちと語り合うことで自分の役が育っていき、役への理解が深まっていく。かかわった作品をもっと愛することができる。作品を直接届ける時間が最高に楽しいと実感しているから、大事にしています。その延長線上に、同じような考えの俳優が集まり、「ミニシアターパーク」が生まれたのは必然だったと思います。

 聞き手/福﨑圭介

 

※3 若松孝二……1936年、宮城県生まれ。映画監督。63年、ピンク映画「甘い罠」でデビュー。2007年、「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」でベルリン国際映画祭・最優秀アジア映画賞を受賞。作品はほかに「キャタピラー」「11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち」「千年の愉楽」など。12年、交通事故により死去。


©「福田村事件」プロジェクト2023

井浦新、田中麗奈主演の映画「福田村事件」は、関東大震災発生の100年後の9月1日より、渋谷ユーロスペースなどで公開。社会派ドキュメンタリー作品を手掛けてきた森達也監督が、関東大震災直後の混乱の中で実際に起こった虐殺事件・福田村事件を題材に撮影した。

(出典:「旅行読売」2023年9月号)
(Web掲載:2023年10月2日)


Writer

福崎圭介 さん

新潟県生まれ。広告制作や書籍編集などを経て月刊「旅行読売」編集部へ。編集部では、連載「旅する喫茶店」「駅舎のある風景」などを担当。旅先で喫茶店をチェックする習性があり、泊まりは湯治場風情の残る源泉かけ流しの温泉宿が好み。最近はリノベーションや地域再生に興味がある。趣味は映画・海外ドラマ鑑賞。

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