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【旅する喫茶店】中村屋(広島)

場所
> 広島市
【旅する喫茶店】中村屋(広島)

高いアーチ形の天井や窓が特徴の店内。薄暗い照明が教会のような雰囲気を強めている

 

教会風の店に流れるジャズの調べ

広島電鉄の土橋停(どばし)留場のそばに、市内有数の歴史を持つ喫茶店がひっそりとある。店内は何の変哲もない入り口からは想像もつかないユニークな空間が広がる。アーチ形の天井の下にアンティークのイスが教会のように並び、シャンデリア風の照明とテーブルランプに、古いコーヒーミルが聖像のように浮かび上がる。

原爆で広島が焼け野原になった終戦の翌年に創業した。創業者にあたる先代は軍隊にいて爆風を逃れ、廃墟となった地にバラックの店を建て、その数年後に今の場所に移ってきた。後年、失火で店の半分が焼け、豆の焙煎(ばいせん)だけをしていた年もあったそうだ。

そんな紆余曲折(うよきょくせつ)の歴史を教えてくれた中村陽子さんは「じゃけん、先代にあたる父が軍隊に入って朝鮮に渡った時、司令部の建物がこがいな西洋風のデザインで、記憶を再現して建てたゆうとりました」と話す。一昨年、2代目店主の夫・昭博(あきひろ)さんが病で倒れてからは、メニューを簡素化してほぼ一人で店に立っている。

店内が想像できない外観。入り口左の大型焙煎機は昭博さんが倒れてから止まったままだ
ブレンドコーヒー450円と、トーストを両面鉄板で焼くバタートースト250円 ※掲載時のデータです

家族の物語が積み重なる店で話を聞いていると、時が経つのを忘れた。タウン誌の編集者だった昭博さんは天井の高い店の音響に着目し、ジャズライブを度々開いてきた。盛況で客が入り切らない夜もあったという。店に流れるジャズと、遠く路面電車が走る音を聞きながら、そんな昔の光景を、そして再び演奏者や聴衆が集い、楽器の音が鳴り響く日を想像した。

文/福﨑圭介 写真/宮川透

昭和レトロなデザインのシャンデリア風の照明。普段は立ち入れないが、中2階もある
昔の店内の写真が使われているショップカード

中村屋

住所:広島県広島市中区堺町1-5-15
営業:11時~16 時/日曜~火曜休
交通:広島駅停留場から広島電鉄22分、土橋停留場下車すぐ
TEL:082-231-5039

※掲載時のデータです。

(出典:「旅行読売」2023年8月号)
(Web掲載:2023年10月16日)


Writer

福崎圭介 さん

新潟県生まれ。広告制作や書籍編集などを経て月刊「旅行読売」編集部へ。編集部では、連載「旅する喫茶店」「駅舎のある風景」などを担当。旅先で喫茶店をチェックする習性があり、泊まりは湯治場風情の残る源泉かけ流しの温泉宿が好み。最近はリノベーションや地域再生に興味がある。趣味は映画・海外ドラマ鑑賞。

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