【出港!海の旅】2泊3日の国内最長の洋上の旅 太平洋フェリーで北海道へ(2)
刻一刻と空の色が変化していくマジックアワーは感動的だ
姉妹船「いしかり」に甲板から手を振る
【出港!海の旅】2泊3日の国内最長の洋上の旅 太平洋フェリーで北海道へ(1)から続く
朝日に輝く海を眺めながら味わう朝食はひときわおいしく感じられ、つい食べすぎてしまった。腹ごなしに船内を散策していると、テーブルやソファが設置されたパブリックスペースで、乗客たちが思い思いにくつろいでいる。
せっかくの船旅だもの、スマートフォンはオフにして、非日常のひとときを楽しもう。なかなか読めずにいた長編小説をひもとく良い機会だ。コーヒーを買おうとスタンドに立ち寄り、思い直してビールを注文。自分へのささやかなご褒美だ。グラスを手に海が見える窓際のソファに腰を据えると、あっという間に物語の世界へ引き込まれていった。
14時40分。仙台発の姉妹船「いしかり」とのすれ違いが見られると聞き、甲板へ出た。白い航跡を引きながら「いしかり」が近づいてくる。2隻のフェリーはすれ違いざま、互いに船笛を轟とどろかせた。航海の無事を祈る思いを宿した低く厳かな音が、深く胸に響いた。
16時40分、仙台港に入港。19時40分の出港まで一時下船も可能だが、このまま読書を続けることにした。同様に船内でくつろぐ乗客の中に、車イスの老婦人を伴ったご家族がいた。フェリーなら乗り換えも座席に縛られる必要もないから、車イスの方の負担も少ないに違いない。マイカーで乗り入れれば、ドア・トゥ・ドアで旅を楽しめるだろう。
3時間後、「きそ」は仙台港を出港。あと一晩で苫小牧に到着する。今のうちに御船印を買っておこう。
退屈する暇がないぜいたくな時間が流れる旅
2日目の早朝4時。あくびをしながら甲板へ出ると、キリリと冷たい海風に眠気が吹き飛んだ。すでに何人かの乗客がカメラを構え、日の出の瞬間を待っている。東の空に目を凝らしていると、ほどなく水平線の上にポツリと太陽が顔を出した。みるみるうちに空がオレンジ色に染まり、フェリーに向かって一直線に光の道が延びてくる。神々しいほどの美しさに、シャッターを押すことも忘れてしばし見とれた。
のんびりと朝風呂や朝食を楽しみ、持参した長編小説を読み終えた頃、樽前山の溶岩ドームが見えてきた。名古屋から苫小牧まで約40時間。「時間を持て余すのでは」との心配は杞憂(きゆう)であった。さて、苫小牧に着いたらまずは昼食だ。スマートフォンでご当地グルメを検索するうちに、苫小牧フェリーターミナルが近付いてきた。
文/佐々木美和 写真/川村 勲
2019年就航の新造船ニュー「きたかみ」
太平洋フェリーが運航する船は、「いしかり」「きそ」に加えて「きたかみ」の3船。主に苫小牧-仙台間を運航している「きたかみ」は、2019年1月にデビュー。「SPACE TRAVEL(スペース トラベル)」をコンセプトに、エントランスやプロムナードでは照明を駆使して宇宙空間を表現。非日常の船旅を提供している。
客室はコンパクトながら快適に過ごせる設計。ペットと一緒に泊まれる「1等ウィズペットルーム」や、ケージで保管できる「ペットハウス」、散歩ができる「ペットテラス」も備えている。
詳細はホームページで確認を。
いしかり・きそ
◉運航ダイヤ
<名古屋>19:00発 → 翌16:40着<仙台>19:40発 → 翌11:00着<苫小牧>
<苫小牧>19:00発 → 翌10:00着<仙台>12:50発 → 翌10:30着<名古屋>
◉料金(大人1人、A期間※)
仙台~苫小牧 名古屋~苫小牧 名古屋~仙台
S寝台 1万3000円 1万5700円 1万 700円
1等アウトサイド 1万7900円 2万3000円 1万5700円
特等 2万3000円 2万8200円 1万9000円
ロイヤルスイート 5万1800円 6万 900円 4万6300円
自動車(5メートル未満) 2万8600円 3万7000円 2万5700円
※A期間……5/8~7/20、8/22~11/30
※そのほかの期間の運賃や自動車運賃、「きたかみ」の運賃などについてはホームページをご確認ください。
◉アクセス
名古屋港=あおなみ線野跡駅からフェリーターミナル行きバス約10分(フェリー出航日には名古屋駅発の直行バスが運行)/伊勢湾岸道名港中央ICから1.5キロ
仙台港=東北新幹線仙台駅からフェリーターミナル行きバス45分、または仙石線中野栄駅からタクシー10分/仙台東部道路仙台港ICから3.5キロ
苫小牧港=室蘭線苫小牧駅からタクシー10分。札幌駅、苫小牧駅からバスが運行/道央道苫小牧東ICから12キロ
◉問い合わせ 太平洋フェリーTEL:050-3535-1163
※掲載時のデータです。
(出典:「旅行読売」2023年8月号)
(Web掲載:2023年10月25日)