【私の初めてのひとり旅】酒井順子さん 金沢(2)
(撮影/洞澤佐智子)
さかい じゅんこ [エッセイスト]
1966年、東京都生まれ。高校在学中から雑誌にコラムを発表し、大学卒業後、広告代理店勤務を経て執筆専業に。2003年に発表した『負け犬の遠吠え』で講談社エッセイ賞と婦人公論文芸賞を受賞。著書は『家族終了』『ガラスの50 代』『百年の女「 婦人公論」が見た大正、昭和、平成』など多数。鉄道旅好きで『鉄道無常 内田百閒と宮脇俊三を読む』などもある。
「ひとり旅の醍醐味がわかるまでには、あと少しの時間が必要」
ホテルに入り、狭いシングルルームの風呂で膝を抱えつつ、「ひとり旅、つまんない……」と私は思っていた。旅番組のように、地元の人との心温まるふれあいがあるわけでもない。お酒は飲めないので、五木寛之的な大人の世界を垣間見られるわけでもない。女子高生のひとり旅と金沢は、どうにも相性が悪かった。
結局、私は金沢ひとり旅のあいだ中、誰とも話さずに、行きと同じルートで東京に戻った。「どうだった?」と親に訊かれても、「うーん」と微妙な返事を返すのみ。
その時の私は、ひとり旅への憧れだけはたっぷり持っていたものの、あまりにも旅のスキルと、孤独への耐性が不足していたのだろう。ひとり旅の醍醐味がわかるまでには、あと少しの時間が必要。諦めずに旅を続けろ!……と、今の私から18歳の彼女に言ってやりたいものである。
文・写真/酒井順子
(出典:「旅行読売」2023年6月号)
(Web掲載:2023年10月29日)