忘れないために、復活した三陸鉄道に全線乗車(1)【ひとり旅】
織笠―陸中山田駅間を走る三陸鉄道。巨大防潮堤で風景は変わってしまった(写真/三陸鉄道)
東日本大震災から13年、三陸沿岸160キロを旅する
三陸鉄道リアス線(三鉄)は南の盛(さかり)駅から北の久慈(くじ)駅まで総延長163キロ、第三セクター鉄道として日本最長だ。折しも今年は三鉄開業40周年。2011年の東日本大震災から13年がたち沿線はどう変わったのか。全線乗車の旅に出た。
盛駅を発車した1両編成の気動車は、その車窓に整備された道路と真新しい家々を映し出す。防潮堤が海を堰(せ)きとめ、甫嶺(ほれい)駅や唐丹(とうに)駅からは水門が見えた。これが震災後の風景なのだ。釜石駅まで所要50分。初日は釜石に泊まった。
翌日は街を散策がてら釜石港に向かう。復興した港には「魚のまち釡石」の発信と臨海部のにぎわい創出を目的に魚河岸(うおがし)テラスが造られた。2階の「魚河岸庄五郎(しょうごろう)」で早めの昼食をとる。海側が一面ガラス張りで港を一望しながら食事ができる。魚介類が新鮮なのはもちろん、秘伝のレシピの酢飯もひと味違う。
女性店員は地震発生時、港の魚市場で働いていて、避難した高台から市場が津波で流される様を見て、「現実とは思えなかった」と振り返る。今は魚河岸テラスもでき、「ここは港の花火や祭りを見る特等席です」と少し誇らしげな口調で話した。
釜石—宮古駅間は、JRからBRT(バス高速輸送システム)方式での復旧案が示された。地元は反発し、19年に鉄道として復旧後、三鉄に移管された。こうして南北リアス線が一つにつながったことは感慨深い。
釜石駅から7駅目の織笠(おりかさ)駅で下車した。特徴的な形の待合室が新海誠監督の映画「すずめの戸締まり」の終盤に登場し、ここにも〝聖地巡礼〟のファンが多数訪れている。
映画では震災が重要な要素として描かれている。駅から徒歩10分の山田湾展望広場は湾の風景が一望でき、南側には映画にも描かれた織笠川水門が見える。広場には映画に登場する象徴的な〝扉〟が設置されていた。扉を開けると向こうの〝常世(とこよ)〟から災厄がくるという設定だ。扉を開けても、今は穏やかで美しい海が見えるだけ。だがかつてこの海が大きなうねりとなり、一帯を飲み込んだことを思わずにはいられない。
文/田辺英彦 写真/三浦建太郎ほか
忘れないために、復活した三陸鉄道に全線乗車(2)【泣けるひとり旅】へ続く(5/25公開)
🔳モデルコース
【1日目】
東京駅 10:45発
↓ 東北新幹線
一ノ関駅 12:38着/12:46発
↓ 大船渡線
気仙沼駅 14:10着/14:21発
↓ 大船渡線BRT
盛駅 15:38着/16:49発
↓ 三陸鉄道
釜石駅 17:36着<泊>
【2日目】
釜石駅前 9:30発
↓ 東前行きバス
市営ビル前9:36着
↓ 徒歩3分
魚河岸テラス
↓ 徒歩5分
市役所前 11:54発
↓ 上大畑行きバス
釜石駅 12:00着/12:18発
↓ 三陸鉄道
織笠駅 13:01着/14:52発
↓ 三陸鉄道
宮古駅 15:32着<泊>
【3日目】
浄土ヶ浜・宮古うみねこ丸
↓ 周遊30分
出崎ふ頭(シートピアなあど) 10:12発
↓ 宮古駅前行きバス
宮古駅 10:26着/10:40発
↓ 三陸鉄道
田野畑駅 11:24着/11:35発
↓ ※観光乗合タクシー
北山崎 11:55着/14:15発
↓ ※観光乗合タクシー
田野畑駅 14:35着/14:41発
↓ 三陸鉄道
久慈駅 15:31着/16:40発
↓ バス(スワロー号)
二戸駅 17:50着
◎土曜・休日用ダイヤです。
※田野畑観光乗合タクシー/片道800円(田野畑駅―北山崎)/TEL:0194-33-2121(要予約)
ひとり泊歓迎の宿
浜べの料理宿 宝来館(釜石)
根浜海岸を見下ろす高台に立ち、ひとり泊用の部屋からも松林越しに大槌湾を望める。夕食はその日に水揚げされた三陸の魚介類を堪能できる浜会席。1泊朝食付き(1万1000円〜)。
【ひとり泊データ】
通年可/1泊素泊まり9900円~、1泊2食1万5400円~/トイレ付き6畳和室/釜石駅または鵜住居駅から送迎10〜30分※要予約(釜石市鵜住居町20地割93-18)/TEL:0193-28-2526
魚河岸テラスのお店
水産会社直営の寿司・和食店。釜石魚市場のほか、東北の港を中心に水揚げされた旬の鮮魚が味わえる。本マグロ赤身や赤エビ、イクラなど10種のネタがのった庄五郎丼1870円や10貫の上にぎり鮨2640円が人気。天気の良い日はテラス席で食べたい。
■11時〜14時/祝日を除く月曜休/釜石駅からバス5分、市営ビル前下車徒歩3分/TEL::0193-55-6900
※記載内容はすべて掲載時のデータです。
(出典:「旅行読売」2024年5月号)
(Web掲載:2024年5月24日)