【世界の絶景遺産】マリア・テレジアが愛したウィーンの離宮 シェーンブルン宮殿(オーストリア)
バロック様式の主宮
バロックとロココ様式を組み合わせた宮殿
近世オーストリアの「女帝」として知られるマリア・テレジア。18世紀にハプスブルク家の広大な領土を相続して君臨し、いまもオーストリアの「国母」として敬愛される。そのマリア・テレジアが愛した居城がウィーンのシェーンブルン宮殿だ。
その前身は、17世紀末に神聖ローマ帝国皇帝のレオポルト1世が造営した離宮である。1740年にマリア・テレジアがハプスブルグ家を継承すると、この離宮を居城とし、大規模な改修を施した。フランスのヴェルサイユ宮殿と比肩される、ヨーロッパ屈指の大宮殿である。
外観は重厚なバロック、内装は優美なロココ調である。主宮は「マリア・テレジア・イエロー」と呼ばれる、明るく濃い黄色で彩られている。内部のハイライトは「大ギャラリー」と呼ばれる大広間だ。アーチ形の窓が連なり、壁には金縁の大鏡がはめ込まれている。天井を仰ぎ見ると、フレスコ画の青空に吸い込まれそうだ。
シェーブルン宮殿は、戦争による破壊も、革命による略奪も受けなかった。そのため、内部の装飾や調度品がよく残されている。見どころが多く書き始めたらきりがないが、筆者の印象に残ったのは、1916年まで在位したフランツ・ヨーゼフ1世の執務室だ。華やかな宮殿のなかに置かれた質素で実務的な空間は、絶対君主の多忙と孤独を伝えているかのようであった。
マリア・テレジア以降のハプスブルグ家は、シェーンブルン宮殿をおもに夏の離宮として利用していたが、実質的に最後の皇帝となったフランツ・ヨーゼフ1世は、晩年、シェーンブルン宮殿に居住していたのである。
主宮には1441の部屋があり、現在見学できるのは40室程度である。少ないと感じられるかも知れないが、ハプスブルク家の生活を肌で感じるには十分だ。全て見ると1時間くらいかかり、疲れた頃に終了する案配である。
じつは、観光客が宿泊できる部屋もある。167平米のスイートルームで、ベッドルーム2室、バスルーム2室、リビング、ダイニング、キッチンを備える。「皇帝のようなサービスを満喫し、王女用のようなベッドで眠れる」そうだが、残念ながら筆者は泊まったことがない。
見飽きないグロリエッテからの眺め
シェーンブルン宮殿は、広大な庭園でも知られている。いまでも手入れが行き届いており、美しい花壇を眺めながら気持ちよく散歩ができる。
主宮と対峙する位置にある丘の上には、グロリエッテという回廊建築が残されている。ギリシア風の外観で、池に映る姿が眩しい。
グロリエッテは、帝政時代に祝宴場などとして使われていた。現在はカフェになっている。屋上は展望台として開放されていて、観光客も上ることができる。
展望台からの景色は素晴らしい。あざやかな黄色の主宮の奥に、赤瓦の屋根が連なるウィーン市街地が見える。いつまで眺めていても飽きない、まさに絶景の世界遺産である。
【旅行データ】
シェーンブルン宮殿は、オーストリアの首都ウィーンにある。ウィーンへは羽田から全日空、成田からオーストリア航空の直行便があり、片道14時間程度。ウィーン市内の地下鉄シェーンブルン駅から徒歩7~8分。路面電車のシュロス・シェーンブルン停留所から徒歩3分程度。