夏の風物詩 伝統の涼【日本の涼景】(1)~筒井時正玩具花火製造所~
火の玉が蕾のように膨らみ、牡丹の花のように火花が散り始める
夏の夜にけなげに咲く線香花火、途絶える寸前の技術を継承
夏の夜の風物詩といえば花火だろう。毎年夏になると、各地で納涼花火大会が開かれ、たくさんの見物客でにぎわう。その一方で、家庭用花火も根強い人気を誇る。その一つとしておなじみの線香花火は、稲わらの芯(スボ)の先に火薬をつけ、香炉に立てて遊んだ様子が、仏壇の線香に似ていることからその名が付いたといわれる。
江戸時代から庶民に親しまれてきた線香花火だが、安価な中国産が増えて国内の生産は減り、1999年に国内唯一のメーカーだった福岡県八女(やめ)市の製造所が廃業。そこで立ち上がったのが、その製造主の親戚で、「筒井時正玩具花火製造所」の3代目、筒井良太さんだった。国産の線香花火を絶やしてはならないと、3年かけて製造技術を習得し、すべてを引き継いだ。
線香花火作りの技術は繊細だ。「長手(ながて)牡丹の線香花火に使う火薬は0.08グラムです。量が少ないと火花が散らず、多過ぎると火の玉が落ちやすくなるため、専用のさじで慎重に盛っています」と筒井さんは語る。人差し指と親指の先に神経を集中し、空気を抜きながら強弱をつけて和紙を撚(よ)っていく。熟練職人が撚ると、火の玉が落ちにくく最後まで美しい火花が散るそうだ。
同製造所では線香花火をより良い形で後世に伝えたいと、品質にこだわっており、30年以上寝かせた宮崎産の煙(えん<すす>)の火薬と、八女市の手すき和紙を草木染めで色付けした紙を使ったオリジナル商品「線香花火筒井時正」を製造。四季をイメージした色合いも上品で、持ち手を花のように細工したものや、保存に最適な桐箱(きりばこ)に入れたものがあり、インテリアや贈答用としても人気が高い。
線香花火について知ってもらおうと、歴史や素材を学び、職人から作り方を聞きながら実際に長手牡丹を作るワークショップを開催。全国の商品取り扱い店やイベントなどで出張ワークショップも行っている。
火の玉が蕾つぼみのように丸々と膨らみ、やがて華やかに火花を散らし、はかなく消える線香花火は、人の一生にも例えられる。猛暑も和らぐ夏の夜、童心に返り鮮やかな花火を楽しんではいかがだろうか。
文/児島奈美 写真/森田公司
夏の風物詩 伝統の涼【日本の涼景】(2)~風鈴、川床、金魚、うちわ~へ続く(9/9公開)
営業:13時~17時(7月・8月は11時~)/水・土・日曜、祝日休(7月・8月は水曜のみ休)
交通:鹿児島線南瀬高駅からタクシー10分/九州道みやま柳川ICから5キロ
住所:みやま市高田町竹飯1950-1
問い合わせ:0944-67-0764
※記載内容は掲載時のデータです。
(出典:「旅行読売」2024年8月号)
(Web掲載:2024年9月8日)