旅よみ 俳壇 旅行読売2024年12月号
晩秋の法起寺三重塔の夕景(写真/ピクスタ)
【特選】
日時計のなかに映りし夏の波
◉長岡市 安木沢修風
<評>海のそばにある日時計、その古い盤に夏の海が青く揺れている。太陽に照らされ時を刻む日時計と海が一体になった。写実というより作者の想像力が働いている。古代に思いをはせるロマンがある。
【入賞】
遺跡文字乾き崩れて夏の風
◉埼玉県吉見町 青木雄二
<評>長い歳月によって遺跡の文字がだんだん崩れて読めなくなっている。そこに南からの湿った夏の風が吹いてきた。景が目に浮かぶ。
榛名山(はるなさん)草笛わたる月の湖
◉仙台市 平山北舟
<評>霊験あらたかな榛名山。ふもとの榛名湖に月光が射し、遠く幻想のように草笛が聞こえる。中七の描写に気持ちが入っている。
斑鳩(いかるが)の塔が見えだす吾亦紅(われもこう)
◉久喜市 梅田ひろし
<評>聖徳太子ゆかりの斑鳩の里に建つ塔の風情にふさわしく、吾亦紅は楚々とした詩情を誘う。私も一緒に歩いている感覚になった。
夕顔の開き湯治の宿に着く
◉東京都府中市 櫻井 光
<評>夕顔の花と湯治の取り合わせが素敵。白くはかなげなその花に迎えられるように湯治の宿に着いた。心身が癒やされたことだろう。
【入選】
若衆は漁を嫌はず盆の舟
◉相模原市 妹尾茂喜
まつり近しをちこちの路地張子鯛
◉伊賀市 箱林允子
信濃路の湧き立つごとき赤蜻蛉(とんぼ)
◉蓮田市 三田祐子
祭の夕日見送れば志功(しこう)が来
◉日立市 小野道子
竿燈(かんとう)の夜空もろとも倒れ来る
◉神奈川県中井町 笹尾雅美
ホームには蟻とベンチと食べ残し
◉伊予市 福井恒博
一片の水面に影置くみづすまし
◉つくば市 有阪貴男
ゲル小さく見えて高きにのぼりけり
◉横浜市 茅房克一
白秋の碑は帆のかたち島の秋
◉練馬区 曽根新五郎
姥捨(うばすて)や田毎(たごと)に蛍火二つ三つ
◉市川市 井田千明
【佳作】
亀の鳴く夕べ川崎臨海部
◉東京都中央区 豊澤佳弘
紫蘇(しそ)の列また藍の列大原の里
◉京都市 福地秀雄
秋風や吹き抜けて行く大伽藍(がらん)
◉行田市 根岸保
稲の花香り流れて有磯海(ありそうみ)
◉新宿区 居林まさを
貴婦人の名を持つ一本草紅葉
◉足立区 太田君江
新涼やさざ波きらり白樺湖
◉江戸川区 岩井千恵子
政宗に別れ告げゆく渡り鳥
◉大田区 豊島仁
野の果に大樹一本晩夏光(ばんかこう)
◉横浜市 相沢恵美子
辻馬車の蹄(ひづめ)の響く霧の由布
◉大分市 市山幸江
コテージの昼を灯して夏落葉
◉杉並区 森秀子
<選者>「麦」会長 対馬康子(つしまやすこ)
香川県出身。「天為」最高顧問。現代俳句協会副会長。産経新聞俳壇選者。2015年文部科学大臣表彰。句集に『愛国』『純情』『竟鳴』など。
対馬先生の総評
投句と掲載の時間差はあるのですが、季節をあまり先取りしすぎたりせず、「今」の気持ちを大切に、できるだけ当季に沿った季語を選びましょう。臨場感をもって詠めますし、選者にもより伝わります。また、昔と違って映像で旅の気分がいくらでも味わえますが、やはり百聞は一見にしかず。実体験が俳句の底力となります。
対馬先生のワンポイント俳句講座
「俳句の写生とは?」
俳句は景を描いて情を叙することを基本とします。正岡子規は、俳句革新の手段として、西洋画のスケッチ(写生)の描法を俳句に取り入れました。その後、高浜虚子の「客観写生」という指導によって広く一般に普及するとともに、様々な写生論が展開されています。
私は吟行の時、まず写真を撮るように17音のシャッターを切ります。目に見える物や自然をできるだけ理屈を挟まないように、心を無にして書き留めます。(その時に奇跡のような佳句に出会うこともあります)。第二段階として、感情と向き合います。そのために得た材料を一旦バラバラにして、映像を新たに組立て直します。ピカソは「私の場合は一つの作品は破壊の合計である」と言っています。
【応募方法】
旅で詠んだ俳句、風景や名所を詠んだ俳句をお送りください。特選句には選者の直筆色紙と図書カード、入賞句には図書カードを進呈します。応募には「月刊旅行読売」に添付の「投句券」が必要です。「月刊旅行読売」は全国の書店またはこちらの当社直販サイトで送料無料でお求めいただけます。
(出典:旅行読売2024年12号)
(Web掲載:2024年10月28日)
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