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【登らない富士山】「富士下山」御中道-奥庭ルート<山梨>(1)

場所
【登らない富士山】「富士下山」御中道-奥庭ルート<山梨>(1)

奥庭展望台からの富士山頂。手前の木は風の影響で枝が東側に伸びている

 

山頂を仰ぎつつ森林限界を歩く、極限の環境で生き抜く植物に感動

ドーン!大迫力の富士山が正面にそびえていた。ここは富士スバルライン五合目。山梨県側の登山道・吉田ルートの登山口になる。

今回は「富士下山」を推奨する富士山ネイチャーツアーズ代表の岩崎仁さんと御中道(おちゅうどう)-奥庭のトレッキングコースを歩いた。このあたりの標高は2200〜2300メートルで、富士山の森林限界付近になる。御中道は、かつて5合目付近の山腹を一周する約25キロのコースだったが、現在は富士スバルライン五合目から御庭(おにわ)までの約2.5キロが通行可能だ。

富士スバルライン五合目から見た富士山。外国人観光客の姿も多い
御中道入り口はバス発着場のすぐ近くにある

「御中道は富士山を信仰する富士講の修行の場でした。難所もあるため、昔は富士山に3度登頂した人だけが通行を許されたそうです」

岩崎さんの説明に気が引き締まる。登山者や観光客でごった返すバスターミナルから御中道に入ると、すぐに森が始まり、喧騒(けんそう)が消えていく。最初に注目したのはダチョウゴケ、イワダレゴケなどの苔(こけ)類だ。「富士山は溶岩や火山礫(れき)<スコリア>)、火山灰などが積み重なった火山なので、水を蓄える力は弱い。代わりに苔類が水を蓄え、森を支えているのです」と岩崎さん。

ダチョウの羽根に似た姿から命名されたダチョウゴケ
ザクザクとスコリアを踏み締めながら御中道を進む

少し先で見つけたミヤマハンノキもユニークだ。植物の成長に欠かせないチッ素を得るため、大気からチッ素を吸収する根粒菌と共生しているのだ。さらに自らの葉を青いうちに散らし、そこに含まれるチッ素を根から吸収するというからすごい。

ミヤマハンノキは日本固有の落葉低木で樹皮に模様がある

森を抜けると視界が開け、左側に富士山頂、右側には青木ヶ原樹海や河口湖、本栖(もとす)湖などが望めた。山側にはカラマツの若木が目立つが、そこにもドラマがあった。最初、オンタデのような多年草がパッチ(個体群)を作る。すると根が密集して中央部が枯れ、ドーナツ型になる。こうして、溶岩と火山礫ばかりの場所に養分が蓄えられ、偶然に運ばれたカラマツの種が発芽するという。

「富士山の誕生は数十万年前といわれます。最新の科学技術でも5600年前までしか遡れませんが、その間に180回も噴火しています。さらに雪崩(なだれ)もあり、極限の環境を生き抜いた草木もいつ淘汰(とうた)されるかわかりません」

落石や雪崩を伴う土砂崩れから登山者や登山道を守る導流堤。眼下に樹海や富士五湖などが広がる

そう聞くと、いま見えている草木や昆虫、鳥などは、奇跡の証しといえるのかもしれない。岩崎さんは「富士下山を通して、自然に親しみ、理解を深めてもらい、守りたいと思える人材を育みたい」と願う。その思いがひしひしと伝わってきた。

文・写真/内田 晃

【登らない富士山】「富士下山」御中道-奥庭ルート<山梨>(2)へ続く(11/29公開)


【モデルコース👟】

富士スバルライン五合目(標高2305メートル)
↓👟50分
御庭奥庭火口列
↓👟10分
御庭(標高2230メートル)
↓👟20分
奥庭荘
↓👟20分
奥庭展望台(標高2200メートル)
↓👟30分
御庭バス停(標高2230メートル)


「富士下山」御中道-奥庭ルート

交通:富士急行線富士山駅からバス55分、富士スバルライン五合目下車すぐ/中央道富士吉田ICから33キロ(9月10日まではマイカー規制のため、富士吉田市の富士山パーキングからシャトルバス)
問い合わせ:TEL055-223-1316(山梨県富士山保全・観光エコシステム推進グループ)

※記載内容はすべて掲載時のデータです。

(出典:「旅行読売」2024年10月号)
(Web掲載:2024年11月28日)


Writer

内田晃 さん

東京都足立区出身。自転車での日本一周を機に旅行記者を志す。四国八十八ヵ所などの巡礼道、街道、路地など、歩き取材を得意とする。著書に『40代からの街道歩き《日光街道編》』『40代からの街道歩き《鎌倉街道編》』(ともに創英社/三省堂書店)がある。日本旅行記者クラブ会員

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