晩秋の古都で国宝を訪ねる
鎌倉時代の仏師定慶(じょうけい)作と伝わる千本釈迦堂の六観音菩薩像
数多くの国宝を護り伝えてきた京都。鎌倉初期に義空上人が開創した千本釈迦堂(正式名は大報恩寺)は、戦火を免れた檜皮葺の本堂が国宝だ。2024年8月に「木造六観音菩薩像」と「木造地蔵菩薩立像」の2件が新たに国宝に指定された。
古代インドの死生観では天道、人道、阿修羅道、畜生道、餓鬼道、地獄道の六道(ろくどう)があり、そこに救いの手を差し伸べる六観音菩薩がいると考えられていた。この六道信仰は藤原時代に流行し、各地で仏像が造立されたが、6体が完全な形で祀られているのは千本釈迦堂だけという。地蔵菩薩立像は、調査で六観音菩薩とセットで造立されたと考えられ、同時に国宝に指定された。国宝殿にはこれらの仏像のほか、釈迦の優秀な弟子たちの「十大弟子像」などが安置され、個性豊かな仏像に出合うことができる。
山科疏水のそばにたたずむ安祥寺は非公開寺院だが、12月1日まで期間限定の特別公開を実施。現在、京都国立博物館で保管されている五智如来坐像が2019年に国宝に指定され、それを機に寺に残る貴重な仏像を公開し、「五智遍明庭(ごちへんみょうてい)」を造営した。大日如来を中心に各如来を配置した五智如来をイメージして、5つの石を配している。
西本願寺の向かいに建つ「龍谷ミュージアム」は日本初の仏教総合博物館。親鸞聖人の750回忌にあたる2011年4月に開館した。2024年の秋季特別展では、学生たちの協力もあり、高野山金剛峯寺の国宝が出展されて話題を呼んだ。次回(2025年1月9日から2月16日)は特別展「仏・菩薩の誓願と供養者の願い」を開催予定だ。仏教美術を通して、安寧を願った仏教徒たちの姿を浮き彫りにする。
2024年は「古都京都の文化財」が世界文化遺産に登録されて30周年。その記念イベントとして真言宗御室派の総本山仁和(にんな)寺で「紅葉雲海ライトアップ」を開催している(12月8日まで)。国宝の金堂が人工の雲海に浮かび上がり、境内に幻想的な風景が広がる。