旅よみ 俳壇 旅行読売2025年2月号
高尾山薬王院天狗像(写真/ピクスタ)
【特選】
大天狗小天狗黒く秋黴雨(あきついり)
◉成田市 小川笙力
<評>この句に出てくる「大天狗」「小天狗」は高尾山薬王院の場面であろう。まさに季題が利いていて、「黒く」を後押ししているのである。東京都にある場所であるが、私も行く時は少し旅気分にもなる。この「大天狗」と「小天狗」の像の後ろには立子(たつこ)、椿、私の句碑も建立されている。無理なく詠(うた)われていた。
【入賞】
秋しぐれ寂光院(じゃっこういん)に傘さして
◉久喜市 梅田ひろし
<評>いかにも京都の名刹(めいさつ)の雰囲気を伝えてくれた作品。特に秋時雨と傘を分けて使ったのも面白いところ。
間口みな同じ商ひ小六月(ころくがつ)
◉練馬区 曽根新五郎
<評>俳句は写生句から入るのが筋であるが、ただ見たままでは日記になってしまう。この作品には独特の発見があった。
コスモスに音無き雨や奥信濃(しなの)
◉杉並区 森 秀子
<評>いろんな花の季題が置き換えられるが、コスモスとその場所が合っているので、季題が的確。中七も斬新であった。
雁の棹(さお)長く短くウトナイ湖
◉川崎市 柳内恵子
<評>苫小牧(とまこまい)から少し行ったところに、このウトナイ湖がある。雁が渡ってくるのでマニアは毎日でも雁に会いに行く。旅気分がよし。
【入選】
鳥葬の丘の彼方へ虎落笛(もがりぶえ)
◉東京都中央区 豊澤佳弘
湯の町の銀座通りもそぞろ寒
◉足立区 山崎勝久
冬に入る軒寄せ合うて佃路地
◉横浜市 相沢恵美子
利尻富士見渡すかぎり霧の朝
◉茨城県利根町 中澤則明
紅葉の一茶行脚の路辿(たど)る
◉つくば市 有阪貴男
涼新た出世地蔵の三越銀座
◉伊予市 福井恒博
異人墓白曼殊沙華(まんじゅしゃげ)はびこりて
◉新宿区 居林まさを
聖ヨハネ海を見下ろす今朝の秋
◉所沢市 木下富美子
哀しみは言はず会津の菊人形
◉市川市 井田千明
天井の守宮(やもり)も静かランプの湯
◉鎌倉市 本阿弥光敬
【佳作】
若狭路に秘仏たづねて通草(あけび)の実
◉京都市 福地秀雄
喉ごしに香る新蕎麦信州路
◉さいたま市 竹内白熊
漆黒に響き隠して流れ星
◉江戸川区 岩井千恵子
コスモスや同じ話に相ひづちし
◉大分市 市山幸江
夕時雨古道の遺跡濡らしゆく
◉埼玉県吉見町 青木雄二
出船待つ霧の波止場や港の灯
◉大田区 豊島仁
闇に舞ふ火の粉を浴びて二月堂
◉神奈川県中井町 笹尾雅美
潮騒の島の小舟や秋の漁
◉伊賀市 箱林允子
秋の空松山城のおひざもと
◉松山市 友澤恭子
寂一字法然院の白椿
◉大分市 森次洋子
<選者>「玉藻」主宰 星野 高士(ほしの たかし)
神奈川県出身。鎌倉虚子立子記念館館長。句集に『残響』『無尽蔵』『破魔矢』『渾沌』など。テレビ、ラジオでも活躍。
星野先生の総評
旅の句はよく甘くなると言われているが、季題が中心となっていれば決してそんなことはない。ただし地名や固有名詞に頼っていると、どうしても旅情に流され易いことは確かだ。原点に戻って写生をして素直に作ることも必要なことのひとつ。今月号の投句もそういったところを表現で高めている句を多く見かけたのは収穫であった。ここでしかない句が楽しみだ。
星野先生のワンポイント俳句講座
「擬音語の効果的な使い方は?」
とにかく見たもの、思ったものや事柄を入れて十七音にするのが俳句の基本。しかし、少し長くやってくると初心者の目では納得しなくなり、内容の濃いものになってくるのは要注意だ。
そんな時は思い切り擬音語を使うことを一考してもよいだろう。
「しんしんと雪が降る」や「がたがたと電車が通る」は当たり前になってしまうので、違ったものが大事。ここも思い切った擬音を使うのは楽しいもの。
ひらひらと月光降りぬ貝割菜(かいわれな)
川端茅舎(ぼうしゃ)
【応募方法】
旅で詠んだ俳句、風景や名所を詠んだ俳句をお送りください。特選句には選者の直筆色紙と図書カード、入賞句には図書カードを進呈します。応募には「月刊旅行読売」に添付の「投句券」が必要です。「月刊旅行読売」は全国の書店またはこちらの当社直販サイトで送料無料でお求めいただけます。
(出典:旅行読売2025年2月号)
(Web掲載:2024年12月27日)
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