【鉄道ひとり旅】コラム「先日、ふらりと旅に出た」と言いたいところだが、実はなかなか難しい(漫画家 やすこーん)

イラスト/やすこーん
「ふらりと旅に出る」のはなかなか難しい
先日、ふらりと旅に出た。
そう言いたいところだが、実はなかなか「ふらりと旅に出る」のは難しい。駅弁も食べたいし、温泉も入りたいし、憧れのホテルにも泊まりたい。まだ乗ったことがない列車にも乗るつもりだ。
となると、それなりにちゃんと計画を立て、準備しないとならない。目当ての駅弁を確実に買うには予約しておいた方がいいし、温泉も休館日がある。人気の観光列車は、1か月前の朝10時に確実にきっぷを取らないと、乗れないことが多いのが実情だ。
旅に行くことを決めたら、まず旅の行程表を作っておきたい。その際、乗車する列車の出発時間だけでなく、「どこ行き」なのかも書いておく。でないとホームに来た列車が、自分の行きたい方面に行くかどうかがわからないからだ。
以前、新潟県の北越急行ほくほく線で、メモに出発時間しか書いておらず、土地勘もなかったため、ホームに上下線同時に入ってきた列車のどちらに乗ればよいか迷ったことがあった。直感で乗ってみたら、反対方向だった。直感は当てにならない。
単線のローカル線は、駅で行き違うので上下線同時に入ってくることがある。発車時間も同時ということがけっこうあるのをその時知った。
スマホの地図アプリを頼るようになる前は、家のプリンターで必要な地図をプリントして持ち歩いていた。鉄道ひとり旅初心者の頃、憧れだった藤子不二雄先生の生誕地・富山県に聖地巡りをしに行った。大雪の降る日に地図を広げていたら、インクジェットの地図が雪でみるみるにじんで読めなくなったことがあった。広島県の宮島では、同じくプリントした地図を手に持って海を眺めていたら、鹿に食べられてしまった。
同一方向に目的が三つ貯まると旅に出る
私は、同一方向に目的が三つ貯まると、旅に行くことにしている。日頃から行きたい場所や食べたい駅弁などをメモしておき「あ、これまとめて回れる」と気付くと旅の計画を立てるのだ。
最近行った旅は、①臨時の寝台特急サンライズ出雲91号に乗る、②まだ食べたことがない駅弁を食べる、③新型特急やくもに乗る、の三つが目的。サンライズ以外は青春18きっぷで行動していたため、18きっぷが使えるのに特急に乗るのはもったいないかも……と③の目的は現地で取りやめた。貧乏性が勝ってしまった。
突然の気変わりやトラブルも許せると、旅は楽しい。ひとり旅は、自分で自分の機嫌を取り、楽しく過ごすもの。計画をきっちりこなすだけが旅ではない。
地図がダメになり途方にくれた際、富山で暖を取るために食べた駅そばのおいしさは一生忘れないし、氷見(ひみ)線から海越しに見た冬の立山連峰の美しさには息をのんだ。広島の宮島で食べた駅弁「あなごめし」は後に繰り返し何度も食べる駅弁となる。
最近行ったサンライズの旅も、ひとり旅なのに様々な人と知り合えた、充実した旅だった。
何が起こるかわからないのが旅。「まあいいか」を口グセに、今日も鉄道ひとり旅を楽しむ。
文・イラスト/やすこーん
やすこーん
旅して描く(書く)漫画家&文筆家。駅弁・駅そば・お酒・温泉を楽しむ「ひとり鉄道旅」が好き。食べた駅弁は2200食以上。温泉ソムリエマスター。主な著書は『おんな鉄道ひとり旅』 (小学館)、『メシ鉄!!!』(集英社)、『やすこーんの鉄道イロハ』(天夢人)など。最新刊は「食べて飲んで ひとりで楽しむ鉄道旅」(玄光社)1980円。
※記載内容は掲載時のデータです。
(出典:旅行読売2024年11月号)
(Web掲載:2025年1月27日)