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今も人々を魅了する蔦屋重三郎の“ 流行をよむ力” 日野原 健司さん インタビュー(太田記念美術館 主席学芸員 )

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今も人々を魅了する蔦屋重三郎の“ 流行をよむ力” 日野原 健司さん インタビュー(太田記念美術館 主席学芸員 )

喜多川歌麿『扇屋翡翠(ひすい)』(太田記念美術館蔵)

「版元」という存在を知ると、浮世絵の見方は変わってくる

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日野原健司さんに蔦屋重三郎の才覚と功績を語ってもらった

今でこそ浮世絵は貴重な美術品とされていますが、江戸時代には庶民の娯楽の対象でした。手頃な値段で購入できたものであり、大衆文化の一つだったのです。蔦屋重三郎(蔦重)は、浮世絵の版元でもありました。版元は絵師が描いた絵を、板木を起こす彫師、板木と色料を用いて紙に摺(す)る摺師(すりし)に依頼して浮世絵として仕上げ、それを売って利益を得ることが目的でした。

蔦重は東洲斎写楽(とうしゅうさいしゃらく)や葛飾北斎(かつしかほくさい)といった著名な絵師と並び、浮世絵を語る上でとても重要な人物であったと言えます。版元も商売ですから、不特定多数の消費者に向けて制作コストや利益を考えながら売れるものを作らなくてはいけません。蔦重は安定した経営を続けながらも、流行の少し先を行くような、庶民が驚くような浮世絵も世に送り出していきました。

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東洲斎写楽『市川蝦蔵(えびぞう)の竹村定之進(さだのしん)』(太田記念美術館蔵)

蔦重は時代や流行に敏感なプロデューサーだったようです。吉原で暮らしていた頃から文化人と知り合い、版元として成功していきました。流行を読み解くビジネスセンス、画家や作家らとのコミュニケーション能力、ネットワークの構成力に長(た)けていたのでしょう。江戸時代には無数の浮世絵が作られましたが、蔦重がかかわった作品は、流行(はや)り廃(すた)りの荒波にもまれながらも長年にわたって鑑賞され、見る者の心を揺さぶる力がありました。そのことが蔦重の才能を証明していると言えます。

版元の存在を意識すると、浮世絵を見る楽しみが増えます。浮世絵は絵師が注目されがちですが、彫師や摺師の職人技や思い、情熱があってこそ完成するものです。版元の存在を知ることでそうした人々の努力も見えてくる。浮世絵の成り立ちが理解でき、高尚な芸術というより大衆向けの娯楽であったことも分かる。蔦重が100年後、200年後を見越して、庶民の間で永久に楽しんでもらえる浮世絵を残そうとしたと考えながら鑑賞するのも楽しいものです。

聞き手/渡辺貴由

📝蔦屋重三郎がわかる! 訪ねたい3 軒

太田記念美術館◉東京・渋谷区

世界に誇る浮世絵の魅力を紹介

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アクセス至便な立地

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常設展はなく、テーマごとに展示作品が入れ替わる。秋頃に蔦重に関する企画展を開催予定

浮世絵専門の美術館として1980年に開館。約1万5000点の浮世絵を所蔵し、浮世絵の始まりから終焉(しゅうえん)に至るまで、幅広いジャンルのコレクションを誇る。喜多川歌麿の作品は80点、東洲斎写楽の作品は16点を有する。展示は1か月ごとに替わり、2025年1月5日~26日は「江戸メシ」と題し、浮世絵を通して江戸時代のさまざまな食文化を紹介する(入館料1000円)。
営業:10時30分~17時/月曜(祝日の場合は翌日)休、年末年始休、展示替え期間休/入館料は展示により異なる
交通:山手線原宿駅から徒歩5分、地下鉄千代田線明治神宮前駅から徒歩3分
住所:渋谷区神宮前1-10-10
問い合わせ:TEL03-3403-0880、050-5541-8600(ハローダイヤル)
※ホームページは👉こちら

静岡市歴史博物館◉静岡・静岡市

十返舎一九のふるさと

⑥静岡市歴史博物館 外観 (003).jpg
江戸時代の静岡についても紹介している博物館

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ユニークなポーズの弥次喜多像

滑稽(こっけい)本『東海道中膝栗毛(とうかいどうちゅうひざくりげ)』の作者、十返舎一九(じっぺんしゃいっく)を見いだしたのも蔦屋重三郎だった。一九は駿府(現在の静岡県の一部)で生まれ、江戸に出て蔦重の耕書堂に寄宿し、黄表紙や滑稽本を執筆した。『東海道中膝栗毛』の主人公、弥次さん、喜多さんの像が駿府城公園に堀端に立つ。近くの静岡市歴史博物館では、徳川家康を中心に、今川氏や駿府の地域史、東海道などについて解説している。
営業:9時~18時(展示室は〜17時30分)/月曜(祝日の場合は翌日)休、年末年始休、臨時休館・開館あり/600円(1階は無料)
交通:交東海道新幹線静岡駅から徒歩15分/東名高速静岡ICから5キロ
住所:静岡市葵区追手町4-16
問い合わせ:TEL054-204-1005
※ホームページは👉こちら

北斎館◉長野・小布施町

葛飾北斎晩年の作品を見る

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東町祭屋台に描かれた天井絵「龍」。北斎85歳の時の作品

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1976年に開館した北斎館

北斎も若い頃、蔦屋重三郎と交流があった。晩年を小布施で過ごし、祭屋台天井絵などの大作を残した。北斎館では、肉筆画や版画、版本などを所蔵している。2025年1月19日までは、“怪力”の表現に注目した企画展「怪力の魅力」を開催。25年1月25日~4月6日は江戸の職人たちに影響を与えた北斎のデザイン集を中心とした企画展「インフルエンサー 北斎」を開催した。
営業:9時~16時30分(1月1日は10時~14時30分)/12月31日休/1000円
交通:長野電鉄小布施駅から徒歩12分/上信越道須坂長野東ICから10キロ
住所:小布施町小布施485
問い合わせ:TEL026-247-5206
※ホームページは👉こちら


※記載内容は掲載時のデータです。

(出典:「旅行読売」2025年2月号)
(Web掲載:2025年5月5日)


Writer

渡辺貴由 さん

栃木県栃木市生まれ。旅行情報誌制作に30年近く携わり、全国各地を取材。プライベートではスケジュールに従った「旅行」より、行き当たりばったりの「旅」が好き。温泉が好きだが、硫黄泉が苦手なのが玉に瑕(きず)。自宅では愛犬チワワに癒やされる日々。

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