【ひとり、秘湯へ】「一人旅研究会」選 郷愁の秘湯宿5館
「一人旅研究会」を立ち上げ、日本の郷愁空間を求めて旅を続ける栗原悠人さんにさんに、秘湯の魅力と、SNSなどで公開しているお気に入りの宿を教えてもらった。

栗原悠人 (くりはら・ゆうと)
1995 年、神奈川県川崎市生まれ。新潟在住。旅情・郷愁探訪家。普段は会社員として生活し、那須、札幌などの住居を転々としながら全国の温泉やひなびた空間へ旅する。日本一周、全県宿泊済み。アカウント名「一人旅研究会」のXのフォロワ―は約20万人。著書は『ノスタルジック写真集』(マール社)。
大自然に包まれるようにひっそり佇(たたず)む秘湯宿。長い旅路を進んだ先に一軒、あるいは身を寄せ合うようにして立つ数軒の宿が見えてきた時、「憧れの宿にたどり着いた」と胸が高揚する。時には、かなりの山奥まで入っていくため、「本当に存在していた」と安心することもある。部屋に通された後、窓を開けてお茶を飲む。心地よい風が吹き込み、鳥の声や葉がこすれ合う音が聞こえ、まるで山奥に抱かれているかのようだ。
秘湯宿の時間はゆっくりだ。明日の朝まで何も考える必要はない。畳の上に寝そべっても、ずっと温泉につかろうとも、誰に気を遣うこともない。私は、誰も入っていない時間帯を狙って湯船に身を沈めに行く。たいていは夜が深くなった頃。源泉かけ流しの新鮮なお湯が全身を包み、時を忘れさせてくれる。宿の周りには、数キロにわたって建物が存在しないことも珍しくない。外を見れば満天の星が広がる。この時、一種の優越感さえ感じる。この広い夜を、独り占めしている気分になれるからだ。
これ以上に心地よい「ひとりきり」を味わえる空間があるだろうか。私はもはや、かけ流しの温泉を独り占めできないと物足りなく感じる。そんな贅ぜい沢たくなわがままを、旅人の隠れ家ともいえる秘湯宿は叶かなえてくれる。
青荷温泉(青森)


電気や電波が通らず、夜は灯油ランプに照らされるランプの宿。四つの風呂のうち総ヒバ造りの「健六の湯」がお気に入り。窓に四季折々の景色が映る。
■黒石市沖浦青荷沢滝ノ上1-7
※公式サイトは👉こちら
三斗小屋温泉 大黒屋 (栃木)



最寄りの駐車場から2時間の登山が必要な三斗小屋(さんどごや)温泉に残る2軒の一つ。本館は築150年以上。大きな窓から見える緑を浴びながら温泉につかった。
■那須塩原市板室919
※公式サイトは👉こちら
鹿沢温泉 紅葉館 (群馬)


明治期から旅人に愛されてきた、鹿沢(かざわ)温泉に唯一残る温泉宿。濃厚な成分の温泉が楽しめる。その証拠に、温泉成分によって至る所が変色している。
■嬬恋村田代681
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奥蓼科温泉 渋御殿湯( 長野)


八ヶ岳の登山口にあり、登山客も多い。浴槽は、ひとりで人生を考えるにはちょうど良い大きさ。渋長寿湯は足元から湯が湧き出しており、つかっていると体中に気泡が付く。
■茅野市北山5520-3
※公式サイトは👉こちら
渡合温泉旅館 (岐阜)


車同士がすれ違うのも大変な細い道を何キロも走った先にある。浴室は大きくないが、木々の緑を通して差し込む日差しが柔らかく、心まで一緒に洗えそうな空間だ。
■中津川市加子母渡合
※公式サイトは👉こちら
文・写真/栗原悠人
※記載内容はすべて掲載時のデータです。
(出典:旅行読売2025年11月号)
(Web掲載:2025年12月26日)


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