旅よみ 俳壇 旅行読売2026年9月号
漆黒の闇夜に乱舞するホタルの光(写真/ピクスタ)
【特選】
闇をみて闇になれゆく蛍狩
◉練馬区 曽根新五郎
<評>蛍を見るため自らも闇になじみ、やがて闇の一部となってゆく。「闇になれゆく」の表現が秀逸。旅先の夜の自然へ静かに溶け込んでゆく感覚を見事に捉えた。旅だからこそ味わう没入感だろう。
【入賞】
夏雲や大屋根広ぐ浅草寺
◉荒川区 川井正弘
<評>夏雲にも負けない浅草寺の大屋根。その量感が一句いっぱいに広がり、インバウンドで賑わう浅草寺の夏の活気まで伝わってくる。
暮るるほど躑躅(つつじ)明かりの笠間かな
◉茨城県利根町 中澤則明
<評>朱紅(しゅこう)色に咲き競う躑躅の鮮やかさには目を奪われる。暮色が深まるほどに花だけが浮かび上がり、「躑躅明かり」の発見が美しい。
夏つばめ室堂(むろどう)に嗅ぐ硫黄の香
◉豊川市 鈴木歌織
<評>夏を告げる燕(つばめ)と立山室堂の硫黄の香。室堂の旅はまず匂いで迎えてくれる。視覚ではなく嗅覚から捉えたところに実感がある。
紫陽花(あじさい)の影や双子のベビーカー
◉相模原市 妹尾茂喜
<評>紫陽花の影と並ぶ双子のベビーカーがほほえましい。説明を尽くさず、光と影のなかにある幸福な時間をそっと切り取った。
【入選】
坂歩く鎮魂もあり長崎忌
◉足立区 山崎勝久
葉桜や段葛(だんかずら)へと風曲る
◉川崎市 柳内恵子
海柘榴市(つばいち)の糶(せり)へ急(せ)く道柿若葉
◉新宿区 居林まさを
辻行けば片蔭探す蔵の街
◉埼玉県吉見町 青木雄二
夏木立音聞く如く四度の滝
◉つくば市 有阪貴男
木漏れ日に溶ける持鈴(じれい)や花遍路
◉東京都中央区 豊澤佳弘
祭宿赤飯が出る朝の膳
◉行田市 根岸 保
青田道スーツケースの音激し
◉足立区 太田君江
カーフェリー北に向かって昭和の日
◉日高市 渡辺義子
残鶯(ざんおう)や汽笛の余韻碓氷道
◉羽村市 遠藤 聡
【佳作】
大原や胡瓜(きゅうり)バーの御八(おや)つなる
◉京都市 福地秀雄
大群の蝶々魚のパラオかな
◉千葉県酒々井町 梅澤波葉
徒(かち)遍路無人駅寄り夕日拝
◉伊予市 福井恒博
植樹祭やさしくしみる子規の歌
◉松山市 友澤恭子
海またぐ瀬戸大橋や夏盛ん
◉横浜市 相沢恵美子
波音に心ゆだねて初夏の航
◉神戸市 山崎彰
ねじ花は萬葉人(まんようびと)の恋の花
◉神奈川県中井町 笹尾雅美
砥部(とべ)焼の皿に映えるや桜鯛
◉鎌ヶ谷市 藤本嗣子
龍の棲む池に浮かびし月朧(おぼろ)
◉成田市 小川笙力
安曇野(あずみの)や西瓜畑を手伝ふ子
◉四日市市 堀田久美子

<選者>「麦」会長 対馬康子(つしまやすこ)
香川県出身。「天為」最高顧問。現代俳句協会副会長。産経新聞俳壇選者。2015年文部科学大臣表彰。句集に『愛国』『純情』『竟鳴』『百人』など
対馬康子先生の総評
名所の景観に加え、その土地の空気や歴史、人との出会いまで感じさせる作品がいいですね。音や香り、光や影を通して旅の実感を伝える句に惹かれました。蛍狩の闇への没入、室堂の硫黄の香、青田道に響くスーツケースの音など、旅人ならではの視点が印象深い。風景の奥にある体験を詠み取った作品を中心に選びました。
対馬康子先生のワンポイント俳句講座
「月を詠む」
月は古くから多くの俳人に詠まれてきました。秋の月はとりわけ身近でありながら、どこか手の届かない存在でもあります。月を詠むときは、ただ月の形や明るさを描くだけでなく、自分と月との関わりを見つめてみてください。
私の最新句集『百人』に<抱くときは素手でなければならぬ月>という句があります。月は実際には抱けません。しかし人は月に触れたいと思うことがあります。その距離感や憧れが一句になります。
旅先で見上げる月、帰り道の月、誰かを思い出す月。同じ月でも見える姿はさまざまです。月そのものだけでなく、その月を見ている自分自身の心にも目を向けてみてください。

対馬先生の句集『百人』
【応募方法】
旅で詠んだ俳句、風景や名所を詠んだ俳句をお送りください。特選句には選者の直筆色紙と図書カード、入賞句には図書カードを進呈します。応募には「月刊旅行読売」に添付の「投句券」が必要です。「月刊旅行読売」は全国の書店またはこちらの当社直販サイトで送料無料でお求めいただけます。
(出典:旅行読売2026年9月号)
(Web掲載:2026年7月28日)
※連載「旅よみ俳壇」トップページはこちら


Tweet
Share