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【私の初めてのひとり旅】古今亭駒治さん フィラデルフィア(2)

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【私の初めてのひとり旅】古今亭駒治さん フィラデルフィア(2)

オレンジ色の街灯が美しいフィラデルフィアの街並み(写真/ピクスタ)

ここんてい・こまじ [落語家]

1978年、東京都出身。大学卒業後、古今亭志ん駒に入門。2018 年、志ん駒死去により、古今亭志ん橋に移門。同年、真打に昇進し、「駒次」から「駒治」に改名。身近な話題をテーマとする自作の新作落語で活躍。鉄道落語を得意とし、寄席以外にも鉄道博物館や鉄道会社、デパートのイベントなどで披露している。著書に落語家仲間との共著「鉄道落語」(交通新聞社新書)がある。座右の銘は「毎日が試運転」。

聖歌隊や鉄道で癒やされるほろ苦かった初めての米国

【私の初めてのひとり旅】古今亭駒治さん フィラデルフィア(1)から続く

教会では、敬虔(けいけん)なプロテスタントの老人たちが、真っ赤なガウンを羽織って賛美歌を歌っていた。同じガウンを着てそこに加わることになった仏教徒の私を、みんな優しく受け入れてくれた。職場のレストランとはまるで違う世界だった。日本人指揮者の先生は熱心だった。「Oh God」という歌詞で終わる賛美歌を、最後の「d」を発音せず「オー、ゴーッ」と締めくくってほしいと言う。しかし、ネイティブのみんなはどうしても語尾の「ドッ」を発音してしまう。それでも一生懸命に練習し、本番では先生の指導通りに歌い終えた。メンバーが抱き合って喜ぶなか、隣のおじいさんが拍手に紛れて「ドッ」と言っているのが聞こえた。聖歌隊に参加した日々は、温かい気持ちにさせてくれる思い出だ。

結局、半年で帰国した。帰り際、好きな鉄道の旅に出た。ニューヨークからアムトラックでナイアガラへ向かい、カナダのヴィアレイルに乗ってモントリオールまで行った。大自然のなかに突然ビルがそびえる街が出現する光景は、縮こまっていた心をほぐしてくれた。

フィラデルフィアのダウンタウンへ向かう郊外電車の駅で

シカゴの空港で日系航空会社のエンブレムを目にした時はほっとした。苦手な飛行機に慰められるなんて、不思議だった。ビル・ワイマンみたいにはならなくて済むんじゃないかと期待したのも束(つか)の間、搭乗したとたん緊張が襲ってきた。真っ暗な機内で青ざめている私に、母親よりも年上の米国人CAさんが、大量のパンをエプロンに包んで持ってきてくれた。そして「たくさん食べないと大きくなれないわよ」と優しくささやいた。成田で降りる際には、ご両親にあげなさいとシャンパンをもらった。未成年だった私には飲むことができなかったあのシャンパンは、どんな味がしただろう。初めての米国のように、ほろ苦かっただろうか。

文・写真/古今亭駒治


(出典:「旅行読売」2024年3月号)
(Web掲載:2024年2月29日)


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